ヘンリー、電子カルテを病院経営の基盤に クラウドネイティブとAIで中小病院支援 逆瀬川社長に聞く
掲載日:
逆瀬川光人・ヘンリー社長
電子カルテ市場では、クラウド化に続く新たな潮流として「クラウドネイティブ」が注目され始めている。クラウドネイティブ型電子カルテ・レセコンシステム「Henry(ヘンリー)」を提供するヘンリー(東京・新宿区)は、中小規模病院を中心に導入を拡大している。
同社は、クラウドネイティブという新しいアーキテクチャを採用することで、生成AI(人工知能)や外部サービスとの連携を生かした病院DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、電子カルテを病院経営の基盤へと進化させようとしている。同社が考える電子カルテの未来と、病院DXの方向性について、逆瀬川光人社長に聞いた。(医療テックニュース編集部 編集長 米谷知子)
中小病院向けにクラウドネイティブ電子カルテを展開
「Henry」は、中小規模病院向けに開発されたクラウドネイティブ型電子カルテ・レセコンシステムだ。一般病床や療養病床に加え、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟など、高齢化に伴い重要性が高まる領域を主なターゲットにしている。
中小病院に着目した背景には、地方を中心に深刻化する人材不足と病院経営の課題がある。医療従事者の確保が難しくなる中、病院では少ない人数で医療の質を維持しながら経営を成り立たせることが求められている。
そのため同社では、電子カルテを単なる診療記録システムではなく、病院運営を支える基盤に位置付ける。電子カルテに加え、導入時の業務設計や運用支援、医事業務の代行・支援までカバーすることで、病院経営全体の改善を支援する。
「クラウド」にも2種類 Henryが採用するクラウドネイティブとは
「Henry」最大の特徴は、クラウドネイティブアーキテクチャを採用している点にある。
クラウド型の電子カルテには、「クラウドリフト型」と「クラウドネイティブ型」の2種類がある。
「クラウドリフト型」は、従来オンプレミスで運用していた電子カルテをクラウド環境へ移行した方式で、病院ごとに専用環境を構築するケースが多い。そのため、サーバー構成や運用方法はオンプレミス型と大きく変わらず、制度改正や機能追加への対応も病院ごとの対応となりやすい。現在、多くの電子カルテが掲げる「クラウド型」が、これにあたる。
一方、ヘンリーが採用する「クラウドネイティブ型」は、最初からクラウド利用を前提に設計された方式だ。病院ごとの専用サーバーや専用端末が不要で、ブラウザーから利用できるため、初期導入コストを抑えやすい。制度改正や機能追加への対応を一斉に反映可能で、予約システムや問診、チャットなどの外部サービスとも柔軟に連携できる。
逆瀬川光人社長は「国が進める医療DX施策の拡大を背景に、今後3~5年でクラウドネイティブ型電子カルテが本格的に普及し、市場の競争軸も変化していく」と話す。

AIで業務フロー全体を再設計
ヘンリーでは、生成AIの活用も積極的に進めている。AIの活用では、既存業務の一部に組み込むのではなく、AIを前提に業務を設計する「AI駆動型」の病院運営を提案する。
逆瀬川社長は「重要なのは、AIで入力作業を効率化することではない。AIを前提に病院の業務フロー全体を見直し、業務そのものを変革することだ」と強調する。
例えば、看護業務は、これまで患者を観察し、メモを取り、ナースステーションに戻って電子カルテへ転記する流れが一般的だった。
「Henry」では、患者対応中に音声で記録し、AIが書類を下書きする。看護師は、その間にバイタル(生体情報)入力など別の業務を進める。こうした運用を提案する。
入力時間だけを短縮するのではなく、業務の流れそのものを再設計することで、生産性を向上させる。そのため導入時には、システム提供だけでなく、現場の業務分析や運用設計まで支援する。
電子カルテを病院経営の収益改善の基盤に
ヘンリーでは、今後の電子カルテ市場の競争軸は「AI」と「投資対効果」に移っていくと考えている。
これまで電子カルテは診療に必要なシステムだが、病院経営では、コストセンターとして見られることが多かった。しかし、逆瀬川社長は「業務改善や経営改善に直接貢献できれば、電子カルテは費用対効果を生み出す『投資対象に位置付けが変わる』と語る。
その考え方を象徴する事例がある。そのべ病院(埼玉・本庄市)では、2023年6月にHenryを導入するとともに、院内業務全体のデジタル化を進めた。その結果、紙カルテからの転記作業や紙資料の受け渡しが不要になり、院内の情報共有が迅速化。看護師の月間残業時間は平均約5.5時間、事務職員は約21時間削減し、紙の使用量も約10分の1まで減少した。
さらに、デジタル化によって生まれた時間を地域医療連携の強化にあてたことで、ほかの医療機関や介護施設からの紹介患者の受け入れが進み、病床稼働率が向上。月間の診療報酬収入は約1.3倍となった。電子カルテの導入が病院経営の改善につながった。
阿蘇立野病院(熊本・南阿蘇村)では、Henryに生成AIを組み込むだけでなく、看護業務そのものを見直した。患者対応中の音声入力や業務フローの再設計で、それまでできなかった約30分の残業削減を目指す取り組みを進めている。同院では今も看護師が働きやすい職場づくりと、人材確保につながる病院づくりを進めている。
ヘンリーは、このような病院経営の改善事例を通じて、電子カルテが単なる記録システムではなく、病院経営や働き方改革を支える基盤になると確信している。

病院DXから地域医療の情報基盤へ
ヘンリーは、「開かれた病院」をビジョンに掲げる。人口減少が進む中、一つの病院や一つの職種だけで医療を支えることは、今後ますます難しくなる。同社は、この課題解決に向けて、病院単体のDXではなく、在宅医療、外来、救急、介護までがシームレスにつながる地域医療が重要とみている。
それには、人同士がつながるだけではなく、必要な情報が標準化され、適切な権限のもとで必要なタイミングに共有・活用できる情報基盤が欠かせない。同社は、「Henry」をその中核となるプラットホームへ育てていく考えだ。
逆瀬川社長は「当社が目指すのは、電子カルテを提供する会社ではない。人材不足や病院経営の課題をテクノロジーと業務改革で解決し、『人が減っても地域医療が持続できる社会』を実現することだ」と語る。ヘンリーは、クラウドネイティブ型電子カルテ「Henry」を通じて、その実現を目指している。