レスコ、電子カルテを次世代医療情報基盤へ 標準化・AI・APIで病院DX支援

藤川佳應・レスコ社長

電子カルテを巡る議論が大きく変わり始めている。国が推進する医療DX(デジタルトランスフォーメーション)政策を背景に、標準仕様への対応やクラウド化、生成AIの活用が加速する一方、サイバーセキュリティーへの対応もこれまで以上に重要になっている。

こうした変化を医療機関はどう捉え、電子カルテはこれからどのように進化していくのか。電子カルテ市場の現在地と、その先の未来について、レスコ(広島市)藤川佳應社長に聞いた。(医療テックニュース編集部 編集長 米谷知子)

電子カルテ市場、医療DX政策で変革期に

電子カルテを巡る環境が、大きく変わり始めている。これまで電子カルテ市場では、紙カルテからの移行や診療記録の電子化が大きなテーマだった。しかし現在は、その次の段階として、医療DXを支える情報基盤としての役割が強く求められるようになってきた。

背景にあるのが、国が進める医療DX政策だ。2026年3月、厚生労働省は「電子カルテ及びレセプトコンピュータ標準仕様」を公表し、電子カルテ情報共有サービスの実現を見据えて、標準仕様への準拠を求める方針を示した。さらに、クラウド型電子カルテへの移行を支援する補助事業も開始され、多くの医療機関が申請している。

こうした政策を受け、電子カルテ市場は従来のオンプレミス型から、クラウドを前提として設計されたクラウドネイティブ型へと、大きく転換しようとしている。レスコもこうした変化を見据え、クラウドネイティブ型電子カルテ「Waroku」シリーズを軸に、標準仕様や生成AIを前提とした次世代の医療情報基盤づくりを進めている。

クラウドネイティブ型電子カルテ「Warokuホスピタルカルテ」
クラウドネイティブ型電子カルテ「Warokuホスピタルカルテ」

レスコの藤川佳應社長は、市場の変化を肌で感じているという。

「クラウド型電子カルテ導入補助金には300施設を超える医療機関から申請がありました。結果はこれからですが、その結果次第では、今年度導入予定案件数をさらに上回る案件が動き出す可能性があります。私どもも、これまで経験したことがないほどの問い合わせをいただいています」

一方で、市場が活性化するほど、医療機関ごとの受け止め方の違いも見え始めている。
藤川社長は、こうした違いが今後の電子カルテ選定に大きく影響するとみている。

電子カルテ選定で進む「二極化」

電子カルテ導入の目的は、医療機関によって大きく異なり始めている。「医療機関の考え方は二極化している」(藤川社長)。

一方は、電子カルテを「紙から電子へ置き換えるシステム」と捉え、補助金を活用して導入を進めようとする医療機関。もう一方は、標準仕様への対応やクラウドネイティブ、APIによる外部サービス連携などを見据え、将来の医療DX基盤として電子カルテを選定する医療機関である。その違いは、電子カルテに対する理解にも表れているという。

例えば、「クラウド型電子カルテ」と一口に言っても、その仕組みは決して一様ではない。
院内で稼働していたシステムをそのままクラウド環境へ移設した「クラウドリフト型」と、最初からクラウド環境での運用を前提に設計された「クラウドネイティブ型」では、拡張性や運用性、将来的なサービス連携の考え方が大きく異なる。

さらに、クラウドネイティブ型の中でも、複数の医療機関が共通基盤を利用する「マルチテナント方式」を採用することで、制度改正への対応や機能追加を効率的に行えるなど、クラウドならではのメリットも生まれる。

「こうした違いを十分に理解しないまま電子カルテを選定すると、将来的な拡張性や運用面で大きな差が生じる可能性があります。」(藤川社長)

標準仕様への対応が求められる現在、電子カルテは単なるシステム更新ではなく、将来の病院DXを見据えた基盤整備という視点で検討することが重要になっている。

こうした考えから、レスコでは電子カルテを販売するだけでなく、医療DX政策や標準仕様、クラウド技術などに関する情報発信にも力を入れている。

YouTubeやSNS、自社メディア「RESCHOニュース」を通じて制度改正や市場動向を継続的に発信しているのも、医療機関が正しい知識を持った上で電子カルテを選択できるよう支援したいという考えからだ。

藤川社長は「電子カルテは導入して終わりではありません。これからは、自院がどのような医療DXを実現したいのかという視点で選ぶ時代になると思っている」と話す。

セキュリティーは「守る」から「備える」へ

電子カルテ市場に追い風が吹く一方で、電子カルテベンダーには新たな課題も突き付けられている。それが、サイバーセキュリティーへの対応だ。

近年、医療機関を狙ったランサムウエア攻撃が相次ぐ中、藤川社長は、「これまでのセキュリティー対策だけでは十分ではない」と話す。

「ランサムウエアを100%防ぐことは現実的ではない。これからは、被害を受けることを前提に、診療を継続するためのBCPまで含めて考えなければならない時代だ」(藤川社長)という。

こうした考え方は、国のガイドラインにも反映され始めている。2026年6月には、厚生労働省が「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版」を公表した。クラウド利用を前提とした考え方がより明確に示されたほか、医療情報システムを構成するソフトウエアやライブラリを一覧化する「SBOM(Software Bill of Materials)」への対応など、システム全体の透明性や安全性を高める取り組みも求められるようになった。

藤川社長は、「ここ数年で、電子カルテに求められるセキュリティーレベルは二段階、三段階と引き上がった」と話す。

その背景には、実際に医療機関で発生したサイバー攻撃の影響もある。2022年に発生した大阪急性期・総合医療センターのランサムウエア被害では、診療停止やシステム復旧に多大な影響が生じ、その後、電子カルテベンダーやネットワークベンダーなどが和解金を支払ったことでも注目を集めた。

こうした事例を踏まえ、藤川社長は「セキュリティーリスクへの対応を、中小病院が単独で担うことには限界がある」と指摘する。

そのためレスコでは、システムを提供するだけでなく、BCPの考え方や復旧手順を含めた提案を進めるとともに、必要に応じてランサムウエア被害を想定した訓練も重要になると考えているという。

さらに同社では、ガバメントクラウドを前提とした公共SaaS(サース)への対応を進めるとともに、開発パートナーのispec(東京・品川区)と連携し、「CloudSail(クラウドセイル)」を活用した安全な外部サービス接続環境の構築にも取り組んでいる。

「これからは、国が整備する基盤も活用しながら、社会全体で医療情報を守る仕組みへ移行していく必要がある」(藤川社長)

医療DXが進めば進むほど、電子カルテは単なる診療記録システムではなく、病院全体の情報基盤としての役割を担うようになる。その基盤を支えるセキュリティーもまた、「付加機能」ではなく、システム全体の設計思想として考える時代へと入りつつある。

AIで病院業務そのものを再設計

生成AIへの期待は、医療分野でも急速に高まっている。国もAI活用を後押ししており、2025年度補正予算では、AIやデジタル技術を活用した業務効率化を支援する「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業」が創設された。業務改善に取り組む医療機関を支援するとともに、その成果を継続的に検証する仕組みとなっている。

また、2026年度診療報酬改定では、AIやICT(情報通信技術)を活用した業務効率化が診療報酬上でも評価されるようになった。医師事務作業補助や病棟業務では、生成AIや音声入力システムなどを活用した取り組みが評価対象となるなど、人材不足が深刻化する中、AIを活用して医療提供体制を維持するという考え方が制度にも反映され始めている。

こうした動きについて、藤川社長は「国はAIを導入すること自体ではなく、AIによって医療現場がどれだけ変わるのかを見ようとしている」とみている。一方で、藤川社長は「AIを導入すれば業務効率化が実現するというほど単純ではない」とも話す。

現在、医療現場では音声入力やカルテ記載、退院サマリ作成など、用途ごとにさまざまなAIサービスが登場している。

個別の業務に特化しているため導入しやすい一方で、用途ごとに異なるAIを導入していけば、病院情報システム全体のコスト増につながるだけでなく、AIごとに品質や運用ルールが異なることで、現場に混乱を招く可能性もあるという。

そこでレスコは、開発パートナーであるispecと連携し、共通AI基盤「Sail AI」を活用した新たなAI活用モデルの構築を進めている。

「Warokuホスピタルカルテ」と「Sail AI」によるAI業務支援のイメージ
「Warokuホスピタルカルテ」と「Sail AI」によるAI業務支援のイメージ

第一弾として、音声入力からカルテ記載、SOAP形式への整理、退院サマリのドラフト作成までを一連の流れで支援する機能を提供する予定だ。今後は精神科の各種文書や入院診療計画書、リハビリテーション計画書など、さまざまな文書作成支援にも対象を広げ、同じAI基盤で病院全体の業務を支援していく構想を描いている。

特徴は、AIを電子カルテの「外付け機能」として利用するのではなく、APIを介して電子カルテへ自然に組み込むことにある。

利用者はAIを意識することなく音声で入力し、AIが裏側でカルテのドラフトを作成する。内容を確認すると、そのままSOAP形式で電子カルテへ反映されるなど、現場の業務フローを大きく変えずにAIを活用できる環境を目指している。

しかし、藤川社長が見据えているのは、その先の世界だ。「AIが前提となる時代には、カルテ入力を効率化するだけでは十分ではない。本当に変わるのは、病院業務そのものだ」と強調する。

AIが診療記録や文書作成、情報整理を担うようになれば、医療従事者の働き方や役割分担も変わっていく。AIを前提に業務プロセスを見直し、病院全体を再設計する時代が来る。藤川社長は、そうした時代を支えるプラットホームとして電子カルテも進化していく必要があると考えている。

APIで電子カルテは「つながる時代」へ

標準仕様への対応が進む中、電子カルテに求められる役割も変わりつつある。藤川社長は、「これからは、電子カルテ単体で完結する時代ではない」と話す。

これまで電子カルテは、医療機関ごとの要望に応じて個別に機能を追加しながら発展してきた。その結果、同じ製品であっても病院ごとに異なるシステムが構築され、電子カルテ本体に多くの機能を組み込むことが一般的だった。

しかし、その一方で、ベンダーへの依存度が高まり、結果として同じベンダーの製品を使い続けざるを得ない、いわゆる「ベンダーロックイン」を招く要因にもなっていた。

「これまでは電子カルテの中に手を加えることで機能を実現してきました。しかし、それでは電子カルテ自体が複雑になり、結果としてベンダーロックインにもつながってしまう」(藤川社長)。

そこでレスコが目指しているのが、「電子カルテの外」での必要な機能の実現。カギとなるのがAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)だ。

同社では、「HL7 FHIR」に準拠したAPIを活用し、AIや地域医療連携システム、予約システムなど、多様な外部サービスと柔軟に連携できる環境づくりを進めている。

藤川社長は、「これからは『どのサービスと連携しています』ということ自体に大きな意味はなくなる」と語る。重要なのは、APIを介して必要なサービスを自由に組み合わせられることだという。

病院が独自に開発したシステムや地域で利用しているサービス、新たに登場するAIサービスなども、APIを通じて柔軟に接続できる。電子カルテは、さまざまなサービスをつなぐプラットホームとしての役割を担っていく。

こうした変化は、販売パートナーとの関係にも及ぶ。クラウド型電子カルテが主流となり、標準仕様への対応が進めば、従来のようにメーカーから製品を仕入れて販売していた代理店の役割も変わっていく可能性がある。そこで同社は、代理店にもAPIを公開し、代理店自身が独自サービスを開発・提供できる環境づくりを構想している。

「代理店が販売会社ではなく、新たなサービスを生み出す存在になれるのではないか。メーカーと代理店の関係も、これから変わっていく」(同)。

この考え方は医療機関にも広がる。情報システム部門を持つ医療機関であれば、APIを活用し、自院の業務に合わせたサービスを独自に構築することも可能になる。

「これからは電子カルテの中をカスタマイズするのではなく、電子カルテの外で必要な機能を実現していく時代になる」(同)。

電子カルテは、閉じたシステムから、多様なサービスが自由につながるオープンなプラットホームへと変わりつつある。その変化は、病院情報システムのあり方そのものを変えようとしている。

AIが病院業務と医療情報基盤を変える

AIが病院業務に浸透したとき、変わるのは入力方法だけではない。藤川社長が見据えているのは、電子カルテそのものの姿が変わる未来だ。

現在の電子カルテは、画面上に並んだ項目へ利用者が入力し、必要な情報を自ら探しに行くことを前提に設計されている。しかし、AIが常に利用者を支援する環境が実現すれば、その前提は大きく変わる。藤川社長は「今のような二次元の画面が、本当に最適なUIなのか」と指摘する。

例えば、医師が患者の状態を音声で伝えるだけで、AIが必要な情報を整理し、SOAP(主観、客観、評価、計画)形式のカルテを作成する。さらに、その時々の診療内容や利用者の役割に応じて、必要な情報だけを最適な形で提示するようになるかもしれない。そうなれば、現在のように画面を操作しながら電子カルテへ入力するという概念そのものが変わる可能性がある。

利用するデバイスも同様だ。PCだけではなく、スマートフォンやタブレット、さらにはスマートグラスなど、その時々の業務に応じたインターフェースが選ばれる時代が訪れるかもしれない。

レスコでは現在、公共SaaSや標準仕様への対応に加え、生成AIを前提とした次世代の電子カルテの研究開発を進めている。ただし、目指しているのは、新しい機能を追加した電子カルテではない。AIが当たり前に存在する時代にふさわしい病院業務や情報のあり方を考え、その変化を支える新しい医療情報プラットホームをつくることだ。

藤川社長は「AIが前提となったとき、病院業務そのものを抜本的に作り直す時代が来る。そうなれば、私たちが今『電子カルテ』と呼んでいるものも、もはやその言葉では表現できない、新しい医療情報基盤へ進化していく」と予測する。

標準仕様への対応、クラウド化、セキュリティーの高度化、そして生成AIの進化。
電子カルテ市場は今、大きな変革期を迎えている。その変化は、電子カルテだけでなく、病院業務や医療のあり方そのものにも及び始めている。