DXで人手不足に挑み経営を変える 神野正博・恵寿総合病院理事長に聞く

神野正博・恵寿総合病院理事長

恵寿総合病院(石川・七尾市)は、AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などを活用し、医療の質と職員の生産性の向上を目指す「KEIJU DX」を進めている。10月19日には、入院患者が装着するスマートウオッチで血圧や心拍数などのバイタル(生体情報)を測定し、電子カルテに自動で記録するシステムの本格運用を開始した。

人手不足が進む能登で、デジタル技術をどう医療の質の向上や病院経営につなげるのか。神野正博・恵寿総合病院理事長に、スマートウオッチの導入の狙いや今後のDX(デジタルトランスフォーメーション)の構想、病院経営者に求められる姿勢を聞いた。(取材:医療テックニュース編集部)

スマートウオッチで患者の変化を継続把握

――スマートウオッチ導入の狙いは。

神野:患者自身にセンサーを装着してもらえる点が大きい。ベッドに設置するセンサーでは、患者が寝ている間の状態しか分からない。リハビリ中やトイレにいる時も、脈などの変化を把握したいと考えた。

手首に装着したスマートウオッチ。画面には血圧などの測定値を表示する
手首に装着したスマートウオッチ。画面には血圧などの測定値を表示する

従来のモニター機器では、電池や複数の配線を身に付けて歩かなければならないものもある。腕時計型であれば、手首に巻くだけで済む。動いたり、リハビリをしたりする急性期の患者だからこそ、負担を少なく装着できることが重要だ。

スマートウオッチの機能を拡張できる点にも可能性を感じている。スマートフォンと同じように、アプリを追加すれば新しい機能を持たせることができる。今後は、院内に整備したブルートゥースの通信環境を活用して、患者の位置情報を把握することなども考えている。

――導入効果の見込みは。

神野:本格運用前の実証試験では、データをどのように集めるかを含めて、運用方法を検討してきた。当初はスマートウオッチごとに測定結果を取りに行ったり、タブレットやスマートフォンを介してデータを送ったりしていた。1年余りかけて方法を改善し、本格運用に至った。

血圧測定だけを見ると、現時点で測定の所要時間は大きく変わっていない。看護師が患者に声をかけ、スマートウオッチのボタンを押して測定しているためだ。従来の血圧計を巻いて測る場合と大きな差はない。

心拍数の推移などをグラフで確認できる管理画面
心拍数の推移などをグラフで確認できる管理画面

一方で、心拍数や酸素飽和度、睡眠の状態などは、看護師が患者のバイタルを測定する時以外も把握できる。われわれは、こうしたデータを、患者の容体悪化のリスクを数値化する「NEWS(早期警告スコア)」につなげ、異常をより早く察知することを目指している。導入効果を示すデータを積み重ねていくのは、これからだ。

――スマートウオッチの活用と、看護師の配置基準や診療報酬上の評価との関係をどう考えていますか。

神野:患者のデータを自動で取得する仕組みは、施設基準の中で評価される余地があると考えている。これまでも、ベッド下などに設置して動きを把握する離床センサーなどが活用されてきた。

スマートウオッチは患者自身が身に付けるため、ベッドを離れている時の状態も把握できる点に大きな可能性がある。こうした取り組みを、診療報酬上の評価にもつなげていきたい。看護師の配置基準の緩和についても、さらに議論を進める必要があると思っている。

AIの活用を加速 ロボット導入も視野

――次に目指しているDXの構想はありますか。

神野:大きく2つある。1つは、病院に蓄積している多くのデータをAIで活用することだ。AIは、すでに画像診断の支援や電子カルテで使用している。

電子カルテに組み込んだAIでサマリーを作成したり、看護師の申し送りにも活用したりしている。チャット形式で電子カルテに質問し、患者の状態を確認する使い方も、実際に動いている。

AIの活用は診療以外の業務にも広がっている。送迎車の配車や、訪問看護・訪問リハビリ・訪問介護の予定の作成、看護師の勤務表の作成にも使っている。人が担ってきたさまざまな業務で、AI化を進めている。

当院は医師65人で診療を支えている。医師たちは非常に頑張ってくれているが、いつまでもその頑張りに頼り続けることはできない。働き方改革への対応もある。医師が少ないからこそ、AIを活用する仕組みを早く取り入れたいと思っている。

AIを活用して患者の状態などをより早く可視化し、変化の察知につなげたい。さらに、AIがさまざまな提案をしてくれる段階に進みたいと考えている。

もう1つは、実際に動作するロボットなどにAIを活用する「フィジカルAI」だ。

将来的には、おむつ交換や患者の話し相手などにも、ロボットやAIアバターの活用が広がると考えている。人手が不足する中、患者の移動や体を持ち上げる作業などを助けるロボットを早く取り入れたい。そのために国内外の技術情報を早くつかみ、導入につなげたいと思っている。

――DXへの投資で着目すべき点は。

神野:費用対効果という点では、RPAが有効だ。決まった手順で行う仕事をソフトウエアのロボットに任せられる。例えば、エクセルの複数の表からデータを集め、1つの表にまとめてグラフを作る作業は、RPAで自動化できる。費用もそれほど高くはない。こうした業務改善にRPAを使う意義は大きい。

DXの推進は経営者の意識から

医療の質と職員の生産性の向上を目指す「KEIJU DX」を進める恵寿総合病院(石川・七尾市)
医療の質と職員の生産性の向上を目指す「KEIJU DX」を進める恵寿総合病院(石川・七尾市)

――これからDXに取り組む病院経営者は、最初の1年に何をすべきでしょうか。

神野:最初から全ての業務をAI化するのは難しい。まずは、入力するデータの取り扱いに配慮した生成AIのサービスを使って、身の回りの仕事からAI化していくことが大切だ。併せて、手順が決まっている仕事にはRPAを活用する。身近な仕事からAIや自動化を取り入れ、業務改善を進めていくことが第一歩になる。

――今、病院経営で最も変えなければならないことは何ですか。

神野:職員だけでなく、経営者の意識が最も大きいと思う。「DXを進めたいが、おカネがない」「人がいない」と言う経営者は多い。しかし、それを理由にしていては、いつまでも進まない。どうすれば実行できるかを考えることが必要だ。

「経営が苦しい」と言いながらも、現状で何とかやっていけるため、変化に踏み出せない面があるのではないか。本当に厳しくなれば、そうは言っていられない。危機感を持つことが重要だ。(敬称略)