AWSジャパン、ゲノム解析基盤「AWS HealthOmics」を東京リージョンで提供開始 創薬を支援

(左から)益子直樹・AWSジャパン ハイテク&ヘルスケア・ライフサイエンス部本部長、高橋健太郎・エーザイ ヒューマンバイオロジーデータエコシステム部長、瀧澤与一・AWSジャパン執行役員パブリックセクター技術統括本部長

アマゾン・ウェブ・サービス・ジャパン(AWSジャパン)は7月27日、ゲノムなどの生物学的データを解析するサービス「AWS HealthOmics(ヘルスオミクス)」の一般提供をAWS東京リージョンで開始したと発表した。データを国内に保管したまま大規模な解析を実行できる。製薬会社の創薬研究や、臨床検査に携わる医療機関のゲノム解析での利用を見込む。同日、記者発表会を開いた。

「AWS HealthOmics」の4つの特長
「AWS HealthOmics」の4つの特長

「AWS HealthOmics」は、ゲノム(全遺伝情報)やRNA、タンパク質などの生体情報を網羅的に調べる「オミクス」解析を支援するクラウドサービス。データの取り込みから大規模解析、結果の共有までを一連の流れとして扱える。業界標準の解析ワークフロー言語「WDL」「Nextflow」「CWL」に対応し、既存の解析手順を活用できる。利用者が使った分だけ料金を支払う従量課金制で提供する。

「Amazon SageMaker(アマゾン・セージメーカー)」や「Amazon Bedrock(アマゾン・ベッドロック)」などのAI(人工知能)サービスとも連携。AIによるゲノムデータの解釈や変異解析に加え、AIエージェントを使った解析ワークフローの作成・実行・修正・可視化の自動化にも活用できる。

東京リージョンのストレージサービス「Amazon S3(アマゾン・エススリー)」にゲノムデータを暗号化して保存し、アクセス権限を管理する。利用者が国外のリージョンにデータをコピーしない限り、国内に保管したまま解析できる。

米国の医療情報保護法(HIPAA)の適格サービスで、日本政府がクラウドサービスの安全性を評価する制度「ISMAP」にも準拠する。操作履歴を記録する「AWS CloudTrail(クラウドトレイル)」や、不審な動きを検知する「Amazon GuardDuty(ガードデューティ)」などと組み合わせることで、データへの不正アクセスやサイバー攻撃を監視できる。

瀧澤与一・AWSジャパン執行役員パブリックセクター技術統括本部長
瀧澤与一・AWSジャパン執行役員パブリックセクター技術統括本部長

瀧澤与一(AWSジャパン執行役員パブリックセクター技術統括本部長)は「研究者に求められているのは単なるインフラではなく、国内で安全に使え、高度なオミクス解析をすぐに始められる環境だ。解析の仕組みを個別に用意する必要がなくなり、クラウドの拡張性を生かして大量のデータを扱える」と語った。

「AWS HealthOmics」を中心としたゲノムデータの転送、保存、解析、可視化から患者還元までの全体像
「AWS HealthOmics」を中心としたゲノムデータの転送、保存、解析、可視化から患者還元までの全体像

AWSによると、遺伝情報を大量に読み取る次世代シーケンサーの普及で、ゲノムなどのデータ量が増加し、解析方法も複雑になっているため、研究機関などが大量のサーバーや保存設備を自ら用意・維持する負担が大きくなっているという。そこで同社は、解析に必要な計算環境を一括して準備・管理する「フルマネージド型」でサービスを提供し、研究者がデータの分析や研究そのものに集中できるようにした。

益子直樹・AWSジャパン 技術統括本部エンタープライズ技術本部ソーシャルソリューション&サービスグループハイテク&ヘルスケア・ライフサイエンス部本部長
益子直樹・AWSジャパン 技術統括本部エンタープライズ技術本部ソーシャルソリューション&サービスグループハイテク&ヘルスケア・ライフサイエンス部本部長

益子直樹(AWSジャパン ハイテク&ヘルスケア・ライフサイエンス部本部長)は「自然言語で指示すれば、これまで準備に数日かかった解析を数時間で実行し、可視化まで自動で行える。専門知識のハードルを下げ、ゲノム解析を民主化できる」と話した。

発表会では、製薬企業による解析基盤の活用例として、エーザイの高橋健太郎・ヒューマンバイオロジークリエーションハブ インテグレイティッドデータサイエンス ヒューマンバイオロジーデータエコシステム部長が登壇した。

同社は、人の疾患に関するデータを重視する「ヒューマンバイオロジー」の研究体制を掲げ、ゲノムや遺伝子の働きに関するデータを創薬標的の探索に活用している。データ量の増加や解析方法の高度化が課題となる中、2023年に「AWS HealthOmics」の技術検証を実施した。

技術検証では、「AWS HealthOmics」とプログラムを自動で動かす「AWS Lambda(ラムダ)」を組み合わせ、ゲノム解析を自動実行するシステムを試作。研究者がウェブ画面から解析条件を選ぶと、必要な計算環境が自動で用意され、解析が実行される。解析結果はウェブ画面で確認できる。

エーザイが「AWS HealthOmics」と「AWS Lambda」を組み合わせて試作した解析システムの構成
エーザイが「AWS HealthOmics」と「AWS Lambda」を組み合わせて試作した解析システムの構成

解析には、世界の研究者が共同で開発・公開する標準的な解析ワークフロー群「nf-core」を活用。自社向けに変更した解析手順も社内専用のワークフローとして保存し、変更履歴を管理できる。新しい解析方法が登場した場合でも、従来より素早く取り込めるという。

高橋健太郎・エーザイ ヒューマンバイオロジークリエーションハブインテグレイティッドデータサイエンスヒューマンバイオロジーデータエコシステム部部長
高橋健太郎・エーザイ ヒューマンバイオロジークリエーションハブインテグレイティッドデータサイエンスヒューマンバイオロジーデータエコシステム部部長

高橋部長は「AWS HealthOmics」について「創薬データを統合し、最新の解析に対応する中核基盤として活用したい。データ基盤をAIとつなぎ、研究者とAIがパートナーとなることで、創薬研究を加速し、患者や家族に希望を届けていく」と述べた。

同社は今回の東京リージョンでの提供開始を受け、本格活用を検討する。ゲノム解析の基盤整備と並行し、ゲノム情報を学習するAIを使った遺伝子変異の影響予測や、「Amazon Bedrock」による研究文書の検索・要約に取り組んでいるほか、研究作業を自律的に支援するAIエージェントの技術検証も進めている。ゲノム解析で得たデータをAIにつなぎ、創薬標的の発見など創薬研究の効率化を図る。

AWSジャパンは、国内の製薬会社や医療機関、研究機関への利用拡大を図る。サービスを通じて、ゲノムデータの国内保管が求められる研究・医療現場でのクラウド活用を後押しする。