医療DXを地域で生かすには 健康・医療・福祉の情報連携でシンポジウム

シンポジウムでのパネルディスカッションの様子(東京・文京区のシード・プランニング本社)

医療テックニュースを運営するシード・プランニング(東京・文京区)が事務局を務める医療福祉情報連携社会実装推進協議会は、「健康・医療・福祉情報連携システムの社会実装による地域包括ケアの充実化」をテーマに、第1回社会実装推進キックオフシンポジウムを開催した。

厚生労働省の担当者、地域包括ケア有識者、富士通の担当者が講演し、システムやデータ基盤の整備に加え、医療・介護・福祉、住民の生活の情報を、地域での支援や課題解決に生かす必要性を示した。(文・高橋早奈子・シード・プランニング・リサーチアナリスト)

厚労省、電子カルテのクラウド化と情報共有を推進

シンポジウム冒頭で、松村泰志会長(国立病院機構大阪医療センター院長)は、「国による新たな情報基盤の整備が進む中、今後はそれをいかに活用し、実効性を高めるかが重要になる」と話し、医療機関だけでなく、自治体や福祉関係者を交えた取り組みを進める考えを示した。

木下栄作・厚生労働省政策統括官付参事官(医療情報連携担当)
木下栄作・厚生労働省政策統括官付参事官(医療情報連携担当)

基調講演では、まず木下栄作・厚生労働省政策統括官付参事官(医療情報連携担当)が「医療DXの推進に向けた国の取組―全国医療情報プラットフォームが拓く次世代の医療情報活用―」をテーマに講演した。

木下参事官は、全国医療情報プラットフォームや電子カルテ情報共有サービスなど、国が進める医療DX施策の現状と今後の方向性を説明した。電子カルテ情報共有サービスは2026年度冬頃の全国的な運用開始を目指しており、2030年までに電子カルテの普及やクラウド化を段階的に進める方針という。

厚生労働省令和9年度概算要求資料「クラウドネイティブ型電子カルテの普及」
厚生労働省令和9年度概算要求資料「クラウドネイティブ型電子カルテの普及」

木下参事官が、今後の方向性として特に力を入れて説明したのが、「クラウドネイティブ型電子カルテへの移行」だ。厚生労働省は2027年度予算の概算要求に、その普及支援として336億円を盛り込んだ。

標準仕様に準拠した認証製品の導入費用に加え、オンプレミス型から認証製品へ移行する際のデータ移行費用の一部も支援する方針だ。

一方で、木下参事官は「導入するのはあくまでプロセス」と説明。国の仕組みを知るだけでなく、導入段階から医療機関内でどのように活用するかを検討し、実際の業務改善につなげることが重要との考えを示した。

85歳以上人口の増加に備え、生活全体を支える地域包括ケアへ

田中滋・埼玉県立大学理事長・慶應義塾大学名誉教授
田中滋・埼玉県立大学理事長・慶應義塾大学名誉教授

続いて、田中滋・埼玉県立大学理事長・慶應義塾大学名誉教授が「85歳以上人口急増に伴うニーズ変容に備える新たな地域包括ケアとは」をテーマに登壇した。

超高齢社会における経済力格差と看取り
超高齢社会における経済力格差と看取り

田中理事長は、「日本人の長寿化によって各年齢層の健康状態や要介護発生率が改善しても、85歳以上の人口そのものが増えることで、要介護者などの総数は増加していく可能性がある」と述べた。そのうえで、「2040年に向けて必要になるのは、医療や介護サービスだけではなく、高齢者の日常生活そのものを地域でどう支えるかという視点」と指摘した。

具体的には、住まい、買い物、移動、人とのつながり、経済状況など、「医療・介護情報だけでは把握できない生活上の課題が重要になる」(田中理事長)という。

田中理事長は、「医療福祉情報」の「福祉」には生活の視点が含まれるとして、健康・医療・介護の情報連携だけにとどまらず、地域で暮らし続けるためのサービスや人とのつながりまで含めて考える必要性を訴えた。

富士通、地域包括ケアから「地域包括ライフケア」へ

荒木達樹・富士通株式会社 CEO室次世代ヘルスケア事業担当Executive Director
荒木達樹・富士通株式会社 CEO室次世代ヘルスケア事業担当Executive Director

最後に、荒木達樹・富士通 CEO室次世代ヘルスケア事業担当Executive Director(エグゼクティブ・ディレクター)が「地域包括ケアから地域包括ライフケアへ―AI時代の地域共創モデルとは―」をテーマに講演した。

荒木エグゼクティブ・ディレクターは、「医療需要の増加、医療従事者など供給側の減少、医療資源や情報の分散が、持続可能な医療を実現するうえでの構造的な課題」と指摘。その解決には、「医療・介護にとどまらず、予防、住まい、生活支援、金融などまで対象を広げ、地域住民の生活全体を支える『地域包括ライフケア』の視点が必要」と説明した。

富士通は、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)、ソフトバンクと健康・医療分野で連携し、統合ヘルスアプリと医療データの連携基盤の構築を進めている。

今回の講演で荒木エグゼクティブ・ディレクターは、このデータ連携基盤について、「新たに大規模なデータベースを作るのではなく、全国医療情報プラットフォームをはじめ、医療機関や検査会社などに既に存在するデータを必要に応じてつなぐ『APIプラットホーム』として構築する」と説明した。

富士通、SMBCグループ、ソフトバンクでは、標準化や相互運用性、本人同意、アクセス管理、監査などを通じ、異なる主体が持つデータを安全に利用できる環境を整えるという。

エコシステムを機能させる8つの役割
エコシステムを機能させる8つの役割

さらに、荒木エグゼクティブ・ディレクターは、自治体や大学病院、地域中核病院などと連携し、全国の複数地域で実証プロジェクトを進める構想も明らかにした。地域内のデータやオープンデータを組み合わせ、医療資源の配置や住民の健康リスクなどを可視化するほか、交通施策や保健指導などのシミュレーションを行い、実際の施策につなげる仕組みを目指すという。

荒木エグゼクティブ・ディレクターは、「データの可視化や分析だけでは社会課題の解決にはつながらず、『実行』の局面が重要」と強調した。今後は3社だけで閉じた仕組みにせず、自治体、医療機関、薬局、民間企業などが参加するシステムとして展開し、地域ごとの実証から得た知見を、ほかの地域にも広げていく考えだ。

社会実装のカギは「システムをどう使うか」

健康・医療・福祉情報の連携と地域での活用について意見を交わす登壇者たち
健康・医療・福祉情報の連携と地域での活用について意見を交わす登壇者たち

講演後のパネルディスカッションでは、「地域包括ケアを充実させるために、健康・医療・福祉情報連携システムをどのように社会実装していけばよいのか」をテーマに登壇者が意見を交わした。

木下参事官は、「国が全国共通の基盤を整備する一方、住民に近いきめ細かなサービスは民間企業や自治体との役割分担が重要になる」と話した。荒木エグゼクティブ・ディレクターも、「データを集めるだけでは価値は生まれず、実際のサービスや支援につなげる『ラストワンマイル』が民間の役割になる」と語った。

一方、田中理事長は、「情報システムを設計する際には、経済状況や人とのつながりなど、住民によって異なる生活条件を考慮する必要がある」と話した。隣接する地域であっても人口構成や所得、住民のニーズは異なるため、地域ごとの課題を把握したうえで共通基盤と結び付けることが重要との意見も出た。

今回のシンポジウムでは、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)で整備する情報基盤を地域の支援や課題解決にどう生かすかが共通の論点となった。国が情報基盤を整え、民間企業がデータをサービスにつなぎ、自治体や医療・介護・福祉関係者、住民が地域の課題に応じて活用する。健康・医療・福祉の情報連携を地域包括ケアの充実につなげるため、各主体の役割分担と連携の重要性が示された。