「骨太の方針2024」から読み解く、医療DXと医療情報利活用のこれから

令和6年6月21日に「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太の方針2024)が発表された。今年度は「賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現」という副題のもと、所得増加や賃上げ定着という、賃上げ促進が主題に掲げられたほか、人手不足への対応としてデジタル化や省力化への取組を支援するとしている。今年度の「骨太の方針」のうち、医療分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組み内容を読み解くことで、今後医療分野に求められる点を考察する。(医療テックニュース編集部 新宅雅文)

医療DXの取り組みは控えめ、これまでの取り組み推進が軸

医療DXの取り組みでは、特に目新しい施策はなく、令和5年6月2日に医療DX推進本部が決定した「医療DXの推進に関する工程表」に基づき「全国医療情報プラットフォーム」の構築や電子カルテの標準化、診療報酬改定DX、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の整備・普及など、今まで取り組んでいる施策を引き続き推進するとしている。

注目すべき点は、マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)についてで、「現行の保険証について2024年12月2日からの発行を終了し、マイナ保険証を基本と仕組みに移行する」と医療DXに項の最初に明記されている。このことから、世論の根強い反対意見があったとしても、改めて紙の保険証の段階的廃止、マイナ保険証へ移行する方針に変更はないと示している。

また、次の感染症危機に向けた、予防接種事務のデジタル化、ワクチン副反応疑い報告の電子化、予防接種データベースの整備など、デジタル化の推進が挙げられている。

経済財政政策は「ワイズスペンディング」徹底で保険料上昇を抑制

財政面では、少子高齢化・人口減少が進むなか、中長期的な社会変化に対応する、持続可能な社会保障システム確立のため医療・介護DXやICT(情報通信技術)、ロボットの先進技術・データの徹底活用、タスクシフト、シェアや全世代型リ・スキリングの推進などで生産性向上に対応するとしている。また、特に最近の経済財政政策で頻出するワイズスペンディング(効果的・効率的な支出)の徹底による保険料負担の上昇抑制が極めて重要としていることから、今年度の方針の柱である「所得増加」や「現役世代の負担する保険料の負担抑制」を相当に重視しているといえる。

医療提供体制は、2040年を見据えた、地域医療構想の対象範囲の拡大、都道府県の責務権限や市町村の役割、財政支援のあり方について、法制上の措置の検討を行い、2024年度中に結論を得るとしており、医療機関機能で、より一層の見直しが図られるといえる。

気になる政策「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」

今年度の「骨太の方針2024」以外に気にしておくべき政策として、同日に改訂版が公開された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」がある。新しい資本主義は、岸田首相が総理大臣就任時に掲げた主要政策で、成長と分配の好循環、賃金と物価の好循環の実現を目指してきた。実行計画自体は2022年の閣議決定後、毎年改訂が行われてきた。

実行計画における健康・医療領域は、成長分野の産業とする施策が中心であるため、医療DXに関する記載はほとんどされていない。ただ、保険診療と保険外診療の併用を認める保険外併用療養費制度の対象範囲拡大、民間保険の活用が記載されており、これらの取り組みについて骨太の方針2024年ではHX(ヘルスケア・トランスフォーメーション)という表記で推進が検討されている。

医療DXは秋の自民党総裁選次第で動きが変わる可能性も

医療DXの施策に大きな変更はなく、今年度は特にマイナ保険証を基本とする仕組みへの移行がスムーズに進むかどうかで、今後の医療DXが加速化するか、停滞するかが左右されるだろう。

もし、医療DXの動きに変化があるとすれば9月に予定されている自民党総裁選の結果、岸田首相から別の人に総裁の座が動いた場合だ。特にマイナンバーカードやマイナ保険証を推進する立場の河野太郎・デジタル大臣が総裁になった場合には、医療DXの施策や進展に大きな影響を及ぼす可能性がある。