NTTプレシジョンメディシン、PGx検査を開始 薬の効果や副作用リスクを遺伝子から見える化

NTTプレシジョンメディシンが始めるPGx検査サービス「Genovision PGx(ゲノビジョンピージーエックス)」(提供:NTTプレシジョンメディシン)

NTTプレシジョンメディシン(東京・千代田区)は遺伝子情報から、個人に最適な医薬品の参考情報が得られる検査サービスを始める。「PGx(薬理ゲノム学)」と呼ばれる考え方を活用し、遺伝情報(ゲノム)を基に、個々の患者に合った医薬品の選択や用量調整に役立てる。血液中の細胞から薬の効き方や副作用の出やすさに関わる遺伝子を抽出・解析することで、抗がん剤や免疫抑制剤、鎮咳(ちんがい)剤など薬ごとの効果や使用上の注意点が個別に分かる。まずは自由診療でスタートし、早期の保険適用を目指す。

18遺伝子を解析、71薬剤の注意点を可視化

サービス名は「Genovision PGx(ゲノビジョンピージーエックス)」。4月から開始する。2mlほどの血液を採取し、薬剤添付文書や診療ガイドラインなどで重要性が指摘されている18種類の薬物関連遺伝子を解析する。検査結果は約2カ月後に報告書で利用者に提出する。71種類の薬剤で使用上の注意点や副作用のリスクなどを個別に知ることができる。

利用者は事前に検査を受けておくことで、自身に効果が低い薬や副作用のリスクが高い薬剤を避けられるだけでなく、治療費の抑制にもつながる。検査結果は主治医に見せることで処方の参考情報としても活用できる。

「Genovision PGx」の概要(提供:NTTプレシジョンメディシン)
「Genovision PGx」の概要(提供:NTTプレシジョンメディシン)

理研技術「corePGseq」で解析、結果は2区分で提示

人の遺伝情報は4種類の塩基の並びとして記録されている。人の塩基配列は基本的にほとんど共通しているが、個人ごとに異なる部分がわずかにある。この違いが、人によって病気にかかるリスクや「効く」「効かない」といった薬の反応の違いなどに関わる場合があるとされている。

「PGx」は、こうした遺伝子情報の違いを検査で調べ、個々の薬の効き方や副作用のリスクなどに関わる遺伝的な特徴を把握し、参考情報として活用する。その結果を基に、患者にとって最適な薬の選択や、用法・用量の調整を行うことで、薬の有効性を高めたり、副作用を最小限に抑えたりすることが期待できる。

「Genovision PGx」の遺伝子解析では、理化学研究所(理研)が開発した「corePGseq(コア・ピージー・セック)」を使用する。コストが安く正確に遺伝子情報を解析できるのが特長という。

(左から)佃英樹・常務取締役メディカルサービス事業部長/パーソナルサービス事業部長、茂垣武文・メディカルサービス事業部検査サービス部長/データコンサルテーション事業部システム開発部長
(左から)佃英樹・常務取締役メディカルサービス事業部長/パーソナルサービス事業部長、茂垣武文・メディカルサービス事業部検査サービス部長/データコンサルテーション事業部システム開発部長

茂垣武文・メディカルサービス事業部検査サービス部長/データコンサルテーション事業部システム開発部長は「PGxに関係する遺伝子は大体100種類あると言われている。ただ、その100種類までにカバレッジを広げるほど、その分、検査コストが上がる。そこで、コストを抑えるために(薬の)添付文書などに出てくる頻度が高い18個の遺伝子を正確に解析するサービスにした」と説明する。

検査結果のサンプル。「使用には注意が必要」と「指示に従って使用」で知らせる(提供:NTTプレシジョンメディシン)
検査結果のサンプル。「使用には注意が必要」と「指示に従って使用」で知らせる(提供:NTTプレシジョンメディシン)

検査報告書は、薬ごとに「使用には注意が必要(用量増減や副作用リスクの考慮が必要)」と「指示に従って使用(通常の用法用量で問題ない)」の2区分でまとめて利用者に提出する。

内容は、国際薬理遺伝学臨床実装コンソーシアム(CPIC)のガイドラインをベースに、日本版組織の日本薬理遺伝学臨床実装コンソーシアム(JCPIC)が策定したPGxのコンテンツに基づいて作成する。そのため「日本の医療事情に即した使えるアドバイスになっている」(茂垣部長)という。

精度・実用性・安全性を強みに、3~4万円で提供

PGx検査は、遺伝子検査サービスのジェネシスヘルスケア(東京・渋谷区)、ジーンクエスト(東京・港区)なども手掛ける。NTTプレシジョンメディシンは、「解析精度」「検査結果の実用性」「分析の安全性」を強みに差別化を図る。

「解析精度」は、複数の解析手法の採用をアピールする。「SNP(スニップ、一塩基多型)」「CNV(コピー数多型)」「HLA(ヒト白血球抗原)」をカバーした。

「SNP」は1つの塩基が個体間で異なる部分、「CNV」は、DNAの特定の領域で通常2つ(父と母から各1)ある遺伝子のコピー数が、1つに減ったり(欠失)3つ以上に増えたり(重複)と個人間で異なる現象、「HLA」は、免疫システムが自己と非自己を識別する分子になる。それぞれが薬の効き方や副作用に関連するとされる。

「検査に必要な3つの解析手法を全て使っているサービスはほとんどない」と茂垣部長は強調する。そのほかにも、遺伝子の配列を読み取る装置「次世代シーケンサー」と、遺伝子を増幅するPCR法などを必要に応じて組み合わせることで、PGxの遺伝子的な特徴を高精度で解析する。

「検査結果の実用性」は、CPICの準拠に加え、JCPICの取り組みで複数の日本人医師が監修しており、日本で承認されている薬や投与量を基準に沿って検査結果を作成することで、治療ですぐに役立つ内容にした。

「分析の安全性」では、国内で検査プロセスを完結することにこだわった。分析はNTTが資本業務提携する遺伝子検査サービスのジェネシスヘルスケア(東京・渋谷区)に委託し、遺伝子情報はNTTの基準に沿ったセキュリティー下で管理する。

茂垣部長は「分析を海外に出している日本の遺伝子検査会社もあるが、その場合にはコントロールしきれない部分が出てくる。われわれは国内で全て行うことで高いセキュリティーコントロールを実現している」と話す。

サービスは、健診を主に行う医療機関に人間ドックのオプション検査で提供する。開始時は全国で約60の医療機関が導入する。価格は医療機関によるが税別3~4万円程度を想定している。「米国でのPGx検査の支払い意思の上限価格が200ドル(約3万円)という調査結果を参考にした」(茂垣部長)。

検査後は日本人間ドック・予防医療学会の遺伝学的検査アドバイザー相当の知識を持つ医師によるオンライン面談やチャット相談のサポートも提供する。受検者は無料で利用できる。

PGxの社会実装モデル(提供:NTTプレシジョンメディシン)
PGxの社会実装モデル(提供:NTTプレシジョンメディシン)

NTTプレシジョンメディシンでは、PGxの社会実装モデルについて、担当医による臨床検査、医療機関での検査サービス、薬剤師の服薬指導の3つがあると分析する。その中で医師による臨床検査が普及の本命と見ている。

ただ、「Genovision PGx」は、現状では自由診療のサービスだ。そこで、医師の臨床検査での費用を抑え、利用者を広げるためにPMDA(医薬品医療機器総合機構)の承認を取得し、早期の保険適用を目指している。保険収載されれば、料金が1万円程度になる可能性があるという。

一方で、PMDAの承認を得るには一定の期間が必要になるため、まずは人間ドックのオプションモデルから始める。茂垣部長は「人間ドックの自由診療モデルを通じて収益のベースラインを作りつつ、サービスのメリットを伝えていきたい」と語る。

欧州は大規模臨床で副作用30%減、米国は民間保険適用で利用者増

欧米のPGx検査の動向(提供:NTTプレシジョンメディシン)
欧米のPGx検査の動向(提供:NTTプレシジョンメディシン)

海外ではPGxの有効性と医療経済性の検証が進んでいる。欧州では、英国、イタリア、オランダなど7カ国で7000人規模の臨床試験が実施され、PGxで薬剤の変更や薬の用量を調整した患者は、標準用量を処方された患者よりも副作用が30%少なくなったなどの結果が報告されている。

米国でも民間保険の適用が追い風となり、遺伝子診断のミリアド・ジェネティクス(ユタ州)のPGx検査サービス「GeneSight(ジーンサイト)」は、累積で300万規模の人が利用したという。

日本のPGx検査の現状と課題(提供:NTTプレシジョンメディシン)
日本のPGx検査の現状と課題(提供:NTTプレシジョンメディシン)

一方、日本では保険適用されているPGx検査は、「イリノテカン(抗がん剤)」「6-メルカプトプリン/アザチオプリン(炎症性腸疾患、白血病)」「シポニモド(多発性硬化症)」の3薬剤(3遺伝子)に限られている。薬の添付文書には遺伝子型に応じた注意喚起があるものの、多くはPGx検査を利用できていないとされる。PGxの案内が記載された薬剤数も、米国の500種類に対し日本は50種類と、10分の1にとどまっているという。

まずはPMDA承認と医療経済性検証へ

こうした背景から、NTTプレシジョンメディシンは今後、PMDAの承認取得を目指すとともに、医療経済性の検証も進める。

米国では「GeneSight」を受検した患者は、受けていない患者と比べて年間の総薬剤費が平均で1000ドル(約15万円)も安くなった報告があるという。同社は国内でも同様の医療経済性を立証できるかを確かめるために、アカデミア(学術界)との共同研究やNTT健康保険組合のレセプト(診療報酬明細書)のデータ分析を進める。

佃英樹・常務取締役メディカルサービス事業部長/パーソナルサービス事業部長は「PGx検査で大丈夫だからといって、効き目の強い薬を最初から処方されると、薬代も上がって治療費が増えてしまうケースもありうる。だからこそ、サービスを活用した場合の医療経済性をしっかりと検証していきたい」と話す。

臨床検査会社と連携して導入する医療機関の拡大にも取り組む。さらに、お薬手帳や自社の在宅医療向け電子カルテ「モバカル」と検査結果の連携も視野に入れている。

茂垣部長は「将来的には、医師が薬を決めるとき、処方するときに『まずは遺伝子を見てから決めましょう』と言えるようになるためのサービスに育てていきたい。われわれとしては、PGx検査で薬を決めることが欧米並みになるのが理想と思っている。サービスを通じて日本もそういう社会にしていきたい」と抱負を述べた。