富士通、エイサーとAIで高齢者の歩行から病気の早期発見支援、自律型AIで事業強化

富士通は7月16日、DX(デジタルトランスフォーメーション)支援事業モデル「Uvance(ユーバンス)」の事業進捗(しんちょく)の説明会を開催し、AI(人工知能)がヒトに代わって自律的に作業行う「AIエージェント」を活用したソリューションなどを公開した。

「Uvance」は、「Sustainable Manufacturing」「Consumer Experience」「Healthy Living」「Trusted Society」などを事業領域に設定。従来のシステム導入という技術主体から、事業部門や技術、コンサルティングなどを組み合わせたソリューションなどの提供を行っている。

「Uvance」のAIエージェント戦略の3つの柱
「Uvance」のAIエージェント戦略の3つの柱

AIエージェントは「Uvance」を先導する技術で、AIを特定業務に生かす「業務特化型エージェント」、複数のAIエージェントが連携した稼働やパートナー企業のエージェントと協業する「マルチエージェント化・マルチベンダー化」、AIエージェントのリスク対策やセキュリティー対策に取り組む「信頼性の担保・適切なガバナンスの構築」を戦略の柱に掲げる。

説明会では、在庫の欠品が予測されるタイミングで、調達や生産、販売などに特化した複数のAIエージェントが、それぞれで解決策を提示するソリューションや製造業向けに関税措置の影響を算出するソリューション、ユーザーのアバター(分身)が多言語でプレゼンテーションを可能にするソリューションなどを紹介した。

高橋美波・執行役員副社長
高橋美波・執行役員副社長

高橋美波・執行役員副社長は「昨年はまだまだトライアルの面が大きかったが、いよいよAIで実際の成果を創出するフェーズになってきた」と強調した。

重点事業領域の1つであるヘルスケア・メディカル分野では、東北大学と業務特化型LLM(大規模言語モデル)「Takane(タカネ)」を使った診療記録・検査レポートのデータを構造化する取り組みを紹介。

新たに台湾のAcer Medical(エイサーメディカル)と、「Uvance」の「骨格認識AI」を活用し、高齢者の歩行パターンから認知症やパーキンソン病などの早期発見を支援するソリューション「aiGait(エーアイゲイト) powered by Uvance」の開発を発表した。

骨格認識AIは野球のバッティングフォームの改善でも利用されている
骨格認識AIは野球のバッティングフォームの改善でも利用されている

富士通の骨格認識AIは画像や映像に映った、人の関節の位置を認識し、AIがその骨格から人の行動を推定する技術。人の動きを基本動作の組み合わせとして捉え、AIが学習した基本動作から行動を認識する。人の目では分かりにくい姿勢などを正確に把握できるという。技術は体操競技の国際大会での採点やフィギュアスケート選手のトレーニング強化で採用されている。

エイサーとの提携では「Uvance」の特定のテーマや目的によって、ハードウエアやソフトウエア、サービスを組み合わせたパッケージで提供するビジネスモデル「オファリング」で技術を供与する。

「aiGait(エーアイゲイト) powered by Uvance」の概要
「aiGait(エーアイゲイト) powered by Uvance」の概要

2社が開発する「aiGait」は、介護者や看護師がスマートフォンやタブレットで対象者の高齢者の歩行や椅子から立つ、座るなどの簡単な動作を撮影し、骨格認識AIを搭載した「aiGait」のアプリケーションで、動作の簡易分析を行う。

分析結果はレポートとして自動生成する。その後、看護師や介護士がレポートを確認し、対象者の動作が事前にアプリで設定した正常な範囲から逸脱している場合は、医師の診察受診を促すとことで、認知症やパーキンソン病などの病気の早期発見につなげる。

エイサーメディカルでは、台湾の台北栄民総病院併設のデイケアセンターで、ソリューションの実証実験を実施。実証実験を通じて、「椅子から立つ」「座る」「歩く」といった人の動作をカメラで撮影し、認知症などの疾病患者特有の動作と共通点の有無を検証する。看護師や介護士などの専門家から意見をもらうことで「aiGait」の完成度を高める。同社では2025年中に台湾全土の高齢者ケア施設への導入を目指す。

アレン・リーン・エイサーメディカル・チェアマン兼CEO
アレン・レン・エイサーメディカル・チェアマン兼CEO

エイサーメディカルのアレン・レン・チェアマン兼CEOは「最初に富士通の技術(骨格AI)をみて非常に精度が高く、医療で使えると思った。この技術と、われわれの強みであるAIのデータ分析を生かし、診療に必要な情報を可視化し、医師にもう1つの目を提供する」と意気込みを述べた

エイサーメディカルは、台湾のパソコンメーカー、エイサーのプログラム医療機器(SaMD)開発子会社で2018年に設立。胸部エックス線画像からAIが骨密度異常を分析する医療機器や糖尿病網膜症病変のAI診断支援ソフトウエアなどを手掛ける。台湾を始め東南アジアなど13カ国で事業を展開。製品は台湾の医療機関を中心に500施設で導入されている。

日本市場では富士通とパートナーを組み、製品を販売する計画。第一弾で「aiGait」のオンプレミス版を10月に発売を予定する。アレン・チェアマン兼CEOは「富士通の協力を得て日本の規制当局の対応を進めながら日本での製品展開を進めていきたい」と述べた。

高橋美波執行役員副社長は、「Uvance」のメディカル分野の事業展開について「『ドラッグロス』の解消で医療データ利活用基盤を活用して治験文書の自動作成するソリューションや、電子カルテのデータから医療文書のAIで自動作成を支援するソリューションを手掛けている。電子カルテの活用では富士通Japanとも協力していく。エイサーメディカルとの取り組みを始め、この分野は伸ばしていきたい」と語った。