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名古屋医療センター、富士通Japanの生成AI文書作成支援を導入 年間5000万円超の削減効果見込む

富士通の記者説明会で生成AIの医療文章作成支援サービス導入について説明する佐藤智太郎・名古屋医療センター医療情報管理部長・整形外科医長

富士通Japanは11月19日、国立病院機構の名古屋医療センター(名古屋市)が、同社の生成AI(人工知能)を活用した医療文章作成支援サービスを導入し、退院サマリー作成業務で本格運用を全診療科で10月末から開始したと発表した。

医療文章作成支援サービスの構成
医療文章作成支援サービスの構成

生成AIの医療文章作成支援は、電子カルテに入力された診療情報をもとに、生成AIが目的や要件に即した医療文章のドラフト作成を支援するサービス。文書生成にはマイクロソフトの生成AIサービス「Azure OpenAI(アジュール・オープンエーアイ)」を利用する。

サービスは、クラウド型で提供するが専用回線の閉域ネットワークで運用する。生成AIが診療データを学習での利用をしないようにし、クラウド上にも保存しない設計にすることで、個人情報を保護し院内で安全に利用できるようにした。

また、AIが誤った生成結果を出力する「ハルシネーション(幻覚)」対策で、電子カルテなどの提供を通じて蓄積した医療業界のノウハウと医療現場での実証実験を反映した精緻なチューニングを実施することで、医療文書の正確性や信頼性を確保した。医療情報の国際標準規格「HL7 FHIR」にも対応する。現状は富士通の電子カルテのみで利用できる。

退院サマリーは、患者の退院後にケアを担当する転院先の医療機関やケア施設と共有する文書。患者の退院後2週間以内に、患者の病状や入院時の治療経過、治療内容などを医師が詳細に記述する必要がある。

生成AIが作成した退院サマリー
生成AIが作成した退院サマリー

名古屋医療センターは、年間で約1万6000件の退院サマリーを電子カルテから診療情報を選定・転記し作成しており、医師に大きな業務負担となっていた。その解決策として、生成AIの導入を検討。2024年12月に整形外科などの複数診療科でサービスを試験導入した。その結果、一患者あたりの退院サマリー作成で、これまで平均で28分かかっていた作業時間が8分に短縮。7割以上の効率化が図れたことから本格導入を決めた。

佐藤智太郎・名古屋医療センター医療情報管理部長・整形外科医長
佐藤智太郎・名古屋医療センター医療情報管理部長・整形外科医長

佐藤智太郎・名古屋医療センター医療情報管理部長・整形外科医長は、11月19日の富士通の記者説明会で「作成時にコピー・アンド・ペーストしなくて済むなど、他社の生成AIサービスよりも使い勝手がよかった。また、クラウドベースで導入しやすいことも決め手となった」と採用の理由を説明した。

名古屋医療センターが見込むコスト削減効果
名古屋医療センターが見込むコスト削減効果

名古屋医療センターは生成AIの導入で、医師の退院サマリー作成の情報収集や整理の負担が軽減されることで、年間で5400万円以上のコスト削減効果を見込んでいる。同センターでは今後もAIの活用を積極的に進めていく考え。「診察前にAIが患者の症状に合わせて最適な質問をする問診システムなどの活用も業務効率化と医療の質や患者満足度の向上につながることから検討していきたい」(佐藤・医療情報管理部長・整形外科医長)としている。