富士通、玄州会とAI活用の病院経営ソリューション開発 施設基準申請や病床運用を効率化
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病院経営ソリューションを発表する富士通の関係者
富士通は10月28日、長崎県壱岐市で光武内科循環器科病院や老人保健施設、在宅ケアサービスを運営する社会医療法人玄州会と、AI(人工知能)を活用した病院経営ソリューションを開発し、運用を開始したと発表した。クラウドのデータ統合とAIプラットホームで医療データを集約し分析することで診療報酬請求のミス防止や病床管理の最適化に図り収益を改善する。
開発したソリューションは施設基準コントロールアプリケーションとベッドコントロールアプリケーションで構成。玄州会が、診療報酬の施設基準の複雑さから生じる申請ミスによる返戻金の削減と、病床運用の最適化で収入の最大化が課題となっていることを受け開発した。アプリは、富士通のデータ統合とAI分析基盤「Fujitsu Data Intelligence PaaS(フジツウ・データ・インテリジェンス・パース)」に構築した。

施設基準コントロールアプリケーションは、診療報酬の施設基準の申請が要件を満たしているか判断できる機能。施設基準の書類をデジタル化し、電子カルテやレセプトコンピューターのデータと突き合わせる仕組みで、基準をクリアしていれば緑で「達成」、クリアしていなければ赤字で「未達」と表示する。
施設基準は、保険診療の算定で、医療機関が満たすべき人員、設備、診療体制、安全面、サービス面などの基準を指す。患者入院時の看護職員配置数、患者の在宅復帰率、医療機器の点検記録、患者への説明記録などが詳細に定められており、2年ごとに行われる診療報酬の改定で変動する。違反をすれば診療報酬を返還する必要がある。

AIエージェントが施設基準を踏まえて収益の改善案を提案する機能も提供する。アプリケーション内に収入の「増加」「減少」「維持」のシナリオを用意。「増加」のシナリオを選んだ場合には、医師、看護師、薬剤師などの職種を学習した複数のAIエージェントがそれぞれの観点で分析。オーケストラAIエージェントが結果をまとめて行うべきアクションをレポートで提示する。
玄州会では病院の職員が書類を参照しながら計算を行っていたが、内容が複雑でわかりにくく、改定による変動もあり、全てを正確に申請することは難しかった。アプリケーションにより、手作業で管理していた対応作業を大幅に軽減し、基準未達による収入減や返戻金発生リスクを事前に検知し回避が可能になった。月収入の約10%に及ぶことがあった返戻金の削減が見込めるという。

ベッドコントロールアプリケーションは、病床の稼働状況が把握できる機能。数理最適化モデルを使うことで、入院患者のベッドを割り当てる時に考慮が必要な関連設備や重症度などの制約条件を踏まえ、高い病床稼働率を維持できるベッドの配置を提案する。

ベッドコントロールもAIエージェント機能を備えており、入院の受け入れの可否を指示すれば、アプリケーションの提案を踏まえ、患者の最適なベッドの割り当てを表示する。玄州会ではアプリの活用で一般病棟の病床稼働率が70%から90%に向上。月間10%の収入増につながると予測。施設基準と合わせ、年間10%の収入増になると試算している。

同日の記者会見で、クロスインダストリーソリューション事業本部Digital Shifts事業部の永井秀美氏は「ベッドコントロールと施設基準というアプリケーションで、病院経営の基盤を強化できる」と強調した。

光武孝倫・玄州会理事長は「現在の医療は『質』『患者のニーズ』『経営』を考える必要がある。そのなかで、われわれは、患者の声に耳を傾け、不安や影響を受け止め、元気を与えるという『患者のニーズ』に最も多く時間を割きたい。そのためには、まず経営の安定化の仕組みが必要と考えた」と説明した。
ソリューションは、電子カルテなどの形式が異なる医療データを富士通が独自のフォーマットで意味を理解できる形にすることでデータ連携を可能にした。システム化と形式の統一がされていないデータも統合できる。複数のAIを組み込むことも可能で、富士通製の電子カルテなどの医療システムだけでなく、他社のシステムとの連携にも対応する。
富士通では、開発したソリューションを2026年内に国内で販売する計画。運用する玄州会が病床数88であることを踏まえ、まずは病床数99床以下の小規模病院向けソリューションで提供する。その後、中堅・大規模病院への展開も視野に入れている。価格は未定。小規模病院の投資余力が必ずしも多くないことを踏まえ、サブスクリプション(定額課金)も検討する。

土井悠哉・AI戦略・ビジネス開発本部エグゼクティブディレクターは「日本の医療を救える、病院経営を救えるソリューション。病院の経営が正常化すれば、医療提供もサステナブル(持続可能)になる」と強調した。