AWSジャパン、医療データ利活用で新戦略 生成AIやデータ連携基盤を強化

医療・製薬分野の新たな戦略的ビジョンを発表する堤浩幸・アマゾンウェブサービス・ジャパン常務執行役員エンタープライズ事業統括本部事業統括本部長

アマゾン・ウェブ・サービス・ジャパン(AWSジャパン)は10月7日、医療・製薬分野の新たな戦略的ビジョン「Journey for 2030」を発表した。クラウドを活用し、患者の医療情報を把握・共有することで、医療機関や製薬会社間でのデータ利活用を促す。

「Journey for 2030」の概要
「Journey for 2030」の概要

「Journey for 2030」は、「縦」と「横」で統合的に医療データの活用を促進する。「縦」は、患者個人に付随するデータを分子、細胞、臓器、行動データの統合解析に活用。診断の早期化や高精度化、個別化医療に役立てる。一方、「横」は異なる医療機関などで、電子カルテのデータ、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)などのデータを共有することで、個別化医療に加え、検査の重複削減や患者の未病・予防・疾患ケアに役立てる。

AWSジャパンでは、ビジョンを基に、医療機関などに「テクノロジー基盤」と「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進体制」でサービスを展開。「テクノロジー基盤」は、「データ連携/統合」「生成AI/業務支援」、「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進体制」では、「セキュアな利活用」「共創と人材育成」を提供する。

「データ連携/統合」は、データコラボレーション基盤「AWS Clean Rooms(クリーンルームズ)」を活用し、医療機関や製薬企業で元データを明かすことなく機密を保持しながらコホート分析や傾向分析、リアルワールドデータなどの第三者データとの統合を可能にする。「生成AI/業務支援」は、生成AIで診療や研究業務の効率化などを支援する。

「セキュアな利活用」は、セキュリティーを確保した信頼性の高いデータ管理環境などを提供する。「共創と人材育成」は、医療・製薬現場向けにeラーニングや学習コンテンツなどを提供し、デジタル人材育成を支援する。「生成AI/業務支援」では、新たに「ヘルスデータエージェント」も発表した。ヘルスケアとライフサイエンス分野に特化した生成AIのデモ動画とAIエージェントのツールを提供する。

「ヘルスデータエージェント」の概要
「ヘルスデータエージェント」の概要

医療機関向けは、退院サマリーの自動作成、放射線読影レポートの患者サマリー自動生成、AIエージェントを使った褥瘡マットレス選定などを用意。製薬企業向けには、マルチモーダルのデータ解析を使ったバイオマーカー探索、AIエージェント活用のラボオートメーション、臨床開発プロトコルの自動生成支援などを格納する。ツールはAWSのサービスに組み込んで即座に実証や検証が行える。利用料は無料。

堤浩幸・アマゾンウェブサービス・ジャパン常務執行役員エンタープライズ事業統括本部事業統括本部長は説明会で「ツールは多くの人に使ってもらうため、課金は考えていない。クラウドと併せて活用し、生産性を高めてもらいたい。それが、ひいてはアマゾンの価値につながる」と話した。

説明会ではAWSのサービスを導入する医療機関で、浜松医科大学が登壇。サービス活用の取り組みを紹介した。浜松医科大は、AWSジャパンとスマートヘルスケアの分野で2024年に包括連携協定を締結している。

同大では、生成AI「Generative AI Use Cases JP(GenU)」を導入し、医師、薬剤師、診療情報管理士、看護師でワーキングチームを結成し、議事録作成やサマリ作成でAIを活用する実証検証を5月から開始。議事録作成では、AIで1~2時間の会議の記録作成が5分でできるようになったという。

五島聡・浜松医科大学放射線診断学講座教授・浜松医科大学付属病院放射線部部長・医療情報部部長・医療DX推進担当・病院長特別補佐
五島聡・浜松医科大学放射線診断学講座教授・浜松医科大学付属病院放射線部部長・医療情報部部長・医療DX推進担当・病院長特別補佐

AIは音声入力を使った診療録作成でも活用する。五島聡・浜松医科大学放射線診断学講座教授・浜松医科大学付属病院放射線部部長・医療情報部部長・医療DX推進担当・病院長特別補佐は「自分の所見や治療方法を他の診療科に情報提供するための文書作成は非常に労力がかかる業務になっていた。AIでこの作業を担うことで、医師は本来業務に集中でき、医療の質の向上につながる」と強調した。