病院DXのリアルを情シス4名が語る 医療テックニュースが1周年記念セミナー開催

セミナーでのパネルディスカッションの様子(東京・文京区のシード・プランニング本社)

医療テックニュース(運営:シード・プランニング)は11月21日、メディア開設1周年を記念して、病院DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを紹介するセミナー「『導入しただけで終わらせない』病院DX~失敗しないための体制構築と継続を生む組織文化の育て方~」を開催した。当日は、病院関係者や医療ITベンダーなど、シード・プランニング本社の会場とオンラインを合わせて100名超の参加者が集まった。

セミナーは、病院でのDX推進やデジタル技術活用の事例共有と、医療情報システムに携わる担当者が現場の課題や展望を議論する場として、講演とパネルディスカッションの2部構成で実施。大津赤十字病院事務部医療情報課課長の橋本智広氏、東京科学大学病院医療情報事務室参事の中野まどか氏、尼崎総合医療センター情報管理部専従看護師多田賀津子氏、北摂総合病院事務局医療情報課課長の黒岩正司氏の4名が講師で登壇した。

橋本智広・大津赤十字病院 事務部医療情報課課長
橋本智広・大津赤十字病院 事務部医療情報課課長

事例共有の講演は、最初に大津赤十字病院の橋本氏が「“現場力”で切り拓く病院DXの未来~変革を支えるボトムアップ型組織デザイン~」と題し講演した。

ユーザー主導型マネジメントとアクション
ユーザー主導型マネジメントとアクション

橋本氏は、病院でのDX推進で医療機関が主導権を持ってマネジメントする「ユーザー主導型マネジメント」の重要性を強調。具体的なアクションとして「プロジェクト全体のコントロール」「統合型の組織をつくる」「経営層との共通認識を持つ」「リスキリングの実践」の4つを挙げ、「いろいろなシステム導入があったり、業務の変革を検討したりするなかでプロジェクト全体をコントロールできる力を持たなければいけない」と指摘した。

「医療DX」と「病院DX」の分類
「医療DX」と「病院DX」の分類

大津赤十字病院が考える医療機関でのDXの定義も紹介した。同院では、オンライン資格確認や電子処方箋などの厚生労働省が進めるDXを「医療DX」、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIなど病院独自で業務改善に向けた取り組みを「病院DX」の2つ分けていると説明。この2項目に「患者」と「職員」を加えた4項目でマッピングを行い、システムの影響度を把握し運用や導入の検討に役立てているという。橋本氏は「(患者・職員のどちらのためのシステムか)この辺りはしっかりと意識していかないといけない」と強調した。

中野まどか・東京科学大学病院 医療情報事務室参事
中野まどか・東京科学大学病院 医療情報事務室参事

次に、東京科学大学病院の中野氏が「足場を固める病院DX~安全な運用基盤の整備を目指して~」のテーマで講演した。

USBメモリ代替システムの構成
USBメモリ代替システムの構成

中野氏は、講演のなかで個人情報対策事例としてUSBメモリの運用を紹介。同院では、許可申請すれば電子カルテでUSBメモリを自由に利用できる状況だったといい、医療情報関係者の情報事故発生への懸念から、システム更新を機にUSBメモリ代替システムを構築したと話した。システムは、クローズドの医療LANネットワークなどを活用しセキュリティーを担保しながら情報にアクセスできるという。

USBメモリ代替システムの運用方法
USBメモリ代替システムの運用方法

中野氏は「今まで自由に使ってたもの(USBメモリ)が使えなくなったことで、あらかじめ覚悟していたクレームは発生したが、クラウドの利用でUSBメモリが不要となり、紛失事案の低減が期待できるようになった」と説明した。

人材育成についても言及。「DX対応には1日も早い戦力化が必要だが、(病院は)ゆっくりじっくり人育てる余裕がない。この状況では、定型的な業務をマニュアル化するなどでムダを排除した効率的に育成できる仕組みを作るしかないと思う。おカネはありません、人もいません、それでは、できませんっていうところもあるが、病院DXは必要なので、今の状況でもやれることをしていくしかない」との考えを示した。

多田賀津子・尼崎総合医療センター 情報管理部専従看護師
多田賀津子・尼崎総合医療センター 情報管理部専従看護師

3番目は、尼崎総合医療センターの多田氏が「病院DXに向けたスマートフォン導入における業務効率化の可能性~パイロット事業の導入効果と現在の取り組み~」をテーマに、スマートフォンとクラウドを活用したスマート輸液ポンプの取り組みについて話した。

医療機器連携プラットフォームシステムの概要
医療機器連携プラットフォームシステムの概要

多田氏は、クラウドを活用した「医療機器連携プラットフォーム」を構築し、スマート輸液ポンプと電子カルテ、スマートフォンが連動したスマート輸液ポンプシステムを導入したことで、導入後は、輸液ポンプの総対応時間を31%減らし、アラートの平均鳴動時間も57%削減したと説明。

スマートフォンとスマートポンプの連携仕様
スマートフォンとスマートポンプの連携仕様

「時間削減以外にもスマホでアラートが鳴動している患者を特定できるようになり、看護師の動線を削減できたほか、ポンプのアラートに早く対応でき、アラートの鳴動前に対応可能になるなど、患者の療養環境向上にも非常に有用だった」と評価した。

黒岩正司・北摂総合病院 事務局医療情報課課長
黒岩正司・北摂総合病院 事務局医療情報課課長

最後は、北摂総合病院の黒岩氏が「『病院DXへの道』~RPA導入事例の紹介と組織体制の構築~」をテーマにRPAの導入について語った。

業務ヒアリングの内容
業務ヒアリングの内容

黒岩氏は、2019年の働き方改革関連法の施行を機に、業務削減でRPA「WinActor(ウィンアクター)」をトライアル利用で始め、導入に向けて事務系7部署で45の業務課題を抽出し、その中から外来のレセ病名登録業務、医業費用の速報資料作成などを選定し業務ロボットを作成したことを紹介。年間5000時間の外来のレセ病名登録業務のうち、RPAで1000時間の削減を見込んでいると明らかにした。

レセ病名登録でのRPA活用
レセ病名登録でのRPA活用

また、RPA導入を通じて得た感想で「RPAを丁寧に説明すると協力が得られ、スムーズに進められる一方、『新しいシステムを1から覚えないといけないのか』という反発もあったので対応も必要になる。また、部門の課題が見え再確認できることなどもわかった」と振り返った。

パネルディスカッションでは登壇者たちが病院DXに対する考え方や進め方で感じていることを意見交換した
パネルディスカッションでは登壇者たちが病院DXに対する考え方や進め方で感じていることを意見交換した

第2部のパネルディスカッションでは、大津赤十字病院の橋本氏が司会を務め、病院DXで登壇者が感じていることなどを議論した。

橋本氏がDXを推進していく上で講演者の共通点を尋ねると、北摂総合病院の黒岩氏は「先生(医師)や周りの職員に気を使いながら行っていくところは、ストレスになることがあると思う」と打ち明けた。

尼崎総合医療センターの多田氏は「当院でいうと、全病棟で全看護師さんがスマートフォンを使っているが、本当に効率的に使えているかといえば、まだまだ使えていない。活用してもらうにはきちんとデータを取って、データを現場に見せることで、次のどのステップに進んでもらうようにしないといけない。こういったことはあると思う」と指摘した。

東京科学大学病院の中野氏は「病院DXで利用者の全員が満足することは難しいと思う。そのなかで、病院全体をどう巻き込んで取り組んでいくか、DXの価値をどう説明するかが課題で大変だと思う」との見解を示した。

ITツールやシステムの導入で病院側がアイデアを出してベンダーに声をかけたのか、ベンダーから提案があったのかの質問に対しては、「システムを入れている病院を見学して『これではちょっとまずいな』と思って、自分たちからいろいろな意見をもらうようになった」と、北摂総合病院の黒岩氏は説明した。

尼崎総合医療センターの多田氏は「システム導入は、ベンダーからの提案が大きいかなと思う。ただ、今回のスマートフォンに関しては、成功している3施設ほどを見学して参考にさせてもらった」と振り返った。

東京科学大学病院の中野氏は「両方あるかなと思う。ほかの病院から情報を提供してもらって参考にする一方で、病院から課題で上がったものをターゲットにして、(ベンダーに声をかけて)検討していくこともある。こうした形が多いように思う」とまとめた。