慈恵医大病院、医療連携フォーラム開催 揺らぐ医療基盤に経営変革の必要性示す

フォーラム開催であいさつする小島博己・東京慈恵会医科大学附属病院病院長

東京慈恵会医科大学附属病院(東京・港区)は3月12日、医療連携フォーラム「揺らぐ医療の経済基盤―今こそ経営を変える勇気を―」を開催した。人口減少や高齢化、財政制約、物価・人件費の上昇、医療資源の地域差などを背景に、医療機関の経営環境が厳しさを増す中、制度・政策・現場の3つの視点から持続可能な医療提供の在り方を講演者が語った。

江口・日医総研主席研究員「診療所の経営は悪化、地域医療維持に継続支援を」

江口成美・日本医師会総合政策研究機構主席研究員
江口成美・日本医師会総合政策研究機構主席研究員

最初に登壇した江口成美・日本医師会総合政策研究機構(日医総研)主席研究員は、日医総研が実施した診療所の緊急経営調査を基に、医療機関の経営実態と課題を報告した。2026年度の診療報酬改定は「病院にとって一定の財源にはなった」とする一方、その前提として「病院の7割が赤字、診療所の4割が赤字という異常事態だった」と指摘。長年の低改定の積み重ねが、医療機関の経営を圧迫してきたとの認識を示した。

診療所の利益率は令和6年(2024年)は前年よりも大幅に悪化
診療所の利益率は令和6年(2024年)は前年よりも大幅に悪化

江口氏が強調したのは、診療所経営の悪化が一時的ではなく、構造的に深まっているという点だ。調査では、回答施設のうち医療法人が7割近くを占め、2023年度から2024年度にかけて利益率が大きく低下。医療法人の診療所では営業利益率、経常利益率ともに半減し、赤字割合も上昇した。平均値だけでなく中央値でも厳しさが際立ったという。その背景として、物価高騰や人件費上昇に加え、コロナ補助金や診療報酬上の特例措置の終了を挙げた。

診療所の令和6年(2024年)の経営状況
診療所の令和6年(2024年)の経営状況

また、大都市では賃料や光熱費の高さが重荷となり、地方では人口減少が経営に影を落とすなど、地域によって事情は異なるが、先行きへの不安は共通すると説明した。近い将来の廃業を考える診療所が一定数に上ることにも触れ、「地域から撤退してしまうのをなんとか抑えなければいけない」と強調。病院と診療所が連携しながら地域医療を支える体制の維持が欠かせないと訴えた。

河原・大久野病院理事・院長「需要減少時代の医療は生産性向上がカギ」

河原和夫・大久野病院・介護医療院理事・院長/東京科学大学名誉教授
河原和夫・大久野病院・介護医療院理事・院長/東京科学大学名誉教授

続いて、河原和夫・大久野病院・介護医療院理事・院長/東京科学大学名誉教授が、人的・物的資源と生産性の観点から医療提供体制の課題を論じた。河原氏は「これからの医療は『需要が大きくて供給が足りない』のではなく、『需要が小さく、供給が相対的に多い局面に入りつつある』」と問題提起した。患者数の減少が病院や医療機関の減少を上回る可能性があるとし、従来の延長線上の経営では立ち行かなくなると警鐘を鳴らした。

河原氏は、日本の医療は制度や配置基準に縛られ、生産性が伸びにくい構造にあると分析。医療・福祉分野は、ほかの産業に比べて生産性の伸びが乏しく、その背景に市場競争やイノベーションの起こりにくさがあると指摘。さらに、18歳人口の減少に伴って将来的に医療人材の供給も細る見通しを示し、「看護基準とか、専任でなければならないとか、そういう基準を緩めない限り人の供給はできない」と、人手不足を前提にした制度設計に見直しが必要だと訴えた。

医療・介護・福祉分野の生産性
医療・介護・福祉分野の生産性

その上で、医療提供量を維持・最適化するには、「全要素生産性(TFP)向上が最も効果的だ」と強調した。資本投入や労働投入には限界がある一方、生産性の改善は供給力を押し上げる要因になるという。

河原・理事・院長が示したTFP改善の対策
河原・理事・院長が示したTFP改善の対策

河原・理事・院長は「病院に限らず、日本の医療は、生産性を上げることが一番生産量を大きくする」と述べ、AI(人工知能)やICT(情報通信技術)導入や規制緩和を進めるとともに、患者減少を前提にした病床や資源の再配置を進める必要があると語った。

渡瀬・アーレア代表取締役「『選ばれる病院』こそが生き残る」

渡瀬ひろみ・アーレア代表取締役/慈恵大学理事
渡瀬ひろみ・アーレア代表取締役/慈恵大学理事

最後に、渡瀬ひろみ・アーレア代表取締役/慈恵大学理事が、企業経営の視点から病院経営の方向性を語った。渡瀬氏は、「人口減少で市場縮小が避けられず、コスト上昇も続く中で、医療機関は『選ばれる病院』になることが生き残りの条件になる。規制もあり制約もある中でどうやって勝ち抜いていくかはそれに尽きる」と強調した。

渡瀬氏が説明したリピート率、満足度などの関係を示すサービス業の売上構造
渡瀬氏が説明したリピート率、満足度などの関係を示すサービス業の売上構造

渡瀬氏は、「医療も広い意味ではサービス業であり、単価を大きく変えにくい以上、経営のカギを握るのは満足度だ」と説明。売り上げは新規患者数と再来患者の比率、単価の掛け合わせで成り立つが、単価は規制の領域で変えにくい中で、満足度の向上が病院への再来につながり、さらに評判や紹介を通じて新規患者の増加にもつながるとし、「最重要KPIは満足度」と語った。

その上で、サービス業の品質を「第一品質」「第二品質」「第三品質」に分けて整理。「第一品質」は、医療技術や設備など基本的な品質で、「あって当たり前」とされる土台、「第二品質」は、「安心できた」「不安が和らいだ」「説明が丁寧だった」といった心理的満足を生む品質、「第三品質」は、期待値を上回る印象や、他院にはない価値を提供することと説明した。その上で、渡瀬氏は「選ばれる病院になるには第一品質を備えるだけでは足りず、第二品質、第三品質が差別化の決め手になる」と述べた。

「第三品質」の概要
「第三品質」の概要

さらに「満足度を上げる施策は、お客さま、つまり患者への愛情がダイレクトに伝わるということ」と述べ、「第二品質、第三品質の根底には患者への愛情が必要」と強調した。その具体策として、接遇やホスピタリティーの改善、インターネット予約の整備、待ち時間対策、入院患者の不便を減らす周辺サービスの充実などを挙げた。また、現代の患者の価値観や生活様式にどこまで対応できるかが、患者の病院選びを左右するとの認識も示した。

最後に、将来の経営には若い世代の価値観や発想を取り込むことが欠かせないとも説明。「昔はトップダウンでよかった。でも、これからは、動力が先頭車両にしかない『機関車型』ではなく、全車両に動力がある、みんなで考える『新幹線型』の経営にしていかなければいけない」と述べ、組織全体が未来に向かって考え、動く経営への転換を提言した。