国際モダンホスピタルショウ AI活用の医療システムに注目

国際モダンホスピタルショウの会場では最新の医療システムなどが展示された。

医療などの機器、製品、システム、サービスなどを扱う専門展「国際モダンホスピタルショウ2024」が7月10日~12日に、東京ビッグサイト(東京・江東区)で開催された。

医療情報システムや医療機器、健診・健康増進サービスなどを扱う258の企業・団体が出展。3日間で3万5408人の来場者を集めた。会場では最新の電子カルテシステムや診療情報統合システムなどが展示される一方、AI(人工知能)を活用した医療システムが目立った。

富士フイルムメディカル AIで画像診断業務を支援

富士フイルムメディカルのブース
富士フイルムメディカルのブース

富士フイルムメディカルが展示していたのが、AIプラットホーム「SYNAPSE SAI viewer(シナプスサイビューワ)」。医用画像情報システム(PACS)「SYNAPSE(シナプス)」上で稼働し、AI技術で画像診断ワークフローを支援する読影ソリューションだ。

読影ビューワーと画像解析オプションの機能を備えており、「REiLi(レイリ)」と名付けた医療用AIを活用した、CTやMRIの画像から臓器自動抽出などのワークフロー支援機能で医師の画像診断を手助けする。

AIが胸部で対象所見と疑わしいものを表示した画像例
AIが胸部で対象所見と疑わしいものを表示した画像例

画像解析オプションでは、胸部X線画像病変検出ソフトウエア「CXR-AID」を利用すると、撮影した胸部単純X線画像をAIが自動で解析。「結節」「腫瘤影」「浸潤影」「気胸」が疑われる領域を検出しマーキングする。

解析結果の候補領域を、0~100に応じて確信度が低い順から青、緑、赤の色付けするヒートマップ表示や、画像単位の解析結果で画像内の確信度を15~90の数値で表示する機能が特長。医師は、示された領域を再確認することで、見落とし防止に役立ち、診断業務の負担を軽減できる。「われわれは医師のワークフローを徹底的に考えている。そのため、医師にとって使い勝手がよく、業務の効率化が図れる支援システムになっている」(富士フイルムメディカル)と説明する。

エルピクセル 精度の高いデータ分析が強みの医療画像診断システム

エルピクセルのブース
エルピクセルのブース

AIを使った医師の画像診断支援システムを手掛けるスタートアップのエルピクセル(東京・千代田区)は、AIを使った医療画像診断支援技術「EIRL(エイル)」を活用した医用画像解析ソフトウエアのソリューションを出展。

脳のMRI画像から脳動脈瘤(りゅう)の疑いのある部分を、AIが自動で検出する「EIRL Brain Aneurysm(エイル・ブレイン・アニュリズム)」や、胸部X画像から結節影(けっせつえい)や無気肺などの異常陰影をAIで自動検出する「EIRL Chest Screening(エイル・チェスト・スクリーニング)」、大腸ポリープ候補の検出をAIが支援する「医用画像解析ソフトウエアなどのをアピールした。

AI診断支援ソフトで脳画像を解析したデモ画面
AI診断支援ソフトで脳画像を解析したデモ画面

その1つでデモを展示していた「EIRL Brain Segmentation(エイル・ブレイン・セグメンテーション)」は、頭部のCT画像から、脳卒中の診断に使われる頭蓋内の高吸収・低高吸収の領域をAIが抽出し強調表示する。また、脳をスライスした画像の高吸収領域を色付けして示す。

「脳、胸部、大腸と部位は違っても数万枚の画像をAIに深層学習(ディープラーニング)させている。また、データも『アノテーション』という画像データに注釈を付けてAIが学習できる形にする下処理も細かく行っており、解析精度は高いと自負している」(エルピクセル)という。

両備システムズ 岡山大と開発の内視鏡画像から早期胃がん深達度を診断するAI

両備システムズのブース
両備システムズのブース

メディカルAI事業を展開する両備システムズは、早期の胃がん病変が映った内視鏡画像をAIが解析して「浅い」「深い」といった深達度(どれくらい深く胃壁にがんが浸潤しているかの度合い)を判定し医師の診断を支援するシステムを展示した。

岡山大学と共同開発したシステムで、岡山大と行った性能試験では早期胃がんの深達度判定で約80%の正診率を達成した。「キャリア10年以上の医師の診断と同程度の正確さ」(両備システムズ)と話す。

ブースでは「メディカルAI」としてシステムを展示
ブースでは「メディカルAI」としてシステムを展示

同社では、最新の内視鏡治療技術では、早期の胃がん病変の場合、胃を温存して病変の切除が可能となったが、内視鏡治療か外的手術にするかを決めるためには、がんの深達度の診断が重要になると説明。ただ、深達度の診断は内視鏡写真の所見などから医師が経験に基づいて行っているため、経験値が重要になるという。「このシステムを活用することで若手の医師でもベテランの医師並みの正診率に近づくことができる」(同)としている。

オミグループ 生成AIが医療事務の文書作成と論文執筆など支援

オミグループのブース
オミグループのブース

医療事務の文書作成と臨床研究や論文執筆を支援するツールで、アクセラテクノロジと共同開発した。医療事務の文書作成機能では、申請書類のフォーマットやフォーマットごとの注意事項、クレーム対応の方針や事例などの文書を一元管理し、生成AIが学習して文書を作成する。ツールは導入する病院のデータを取り込んで使用する。

文書作成のデモ画面
文書作成のデモ画面

臨床研究や論文執筆の支援機能では各種の論文や医師自身の臨床体験での気付きや検討事項、クリニカルクエスチョン(臨床的疑問)、リサーチクエスチョンなどを取り込み、そのデータからAIが臨床研究や論文執筆を手助けする。

「生成AIに慣れていない医師はまだまだ多い。われわれのサービスは簡単なプロンプト(命令文)で、AIが非常に高い精度で求める内容を作成する。そのため、非常に使いやすいツールになっていることが一番の強み」(共同開発したアクセラテクノロジ)。生成AIにはオープンAIの「GPT-4o(ジーピーティーフォーオー)」を使用。「AIの学習範囲は使用する病院内に限定することでセキュリティーも確保した」(同)としている。

展示会で各社はAIを活用したシステムの業務改善効果などをアピール。一方で、来場者からは「AIは便利だと思うが、本当に役に立つかはまだ分からない。また、どれだけの費用対効果があるのも不明。すぐに飛びつくわけにはいかない」(総合病院の情報システム担当者)との声も聞かれた。使うこなせれば有益なAI活用システムだが、普及には、医療機関にどれだけのメリットがあるのか、ベンダーの十分な説明が求められてきそうだ。