病院・クリニックの医療DX導入、「人手不足の補填」が期待効果で最多 保科製作所が調査

X線防護衣などの保科製作所(東京・文京区)は9月29日、病院やクリニックに勤務する医師、看護師、看護助手、事務職、病院やクリニックの経営層を対象に行った医療DX(デジタルトランスフォーメーション)に期待する役割の調査結果を発表した。それによると、医療DX導入で最も期待する効果は人手不足の補?(ほてん)であることが分かった。

調査名は「病院・クリニックの経営と業務の両面から見る、医療DXに期待されている役割」で、病院やクリニックに勤務する医師、看護師、看護助手、事務職616人、病院やクリニック経営者415人の計1031人が回答した。

最初に、自身が勤める病院・クリニックの医療DXに期待することで最も近いものを尋ねたところ、「人手不足の補填」(34.5%)が最多だった。次いで「システム間連携による業務効率化」(27.5%)、「データに基づく経営判断の高度化」(15.8%)となり、業務効率化やデータ利活用以上に、まずは人が足りない現実をどう補うかが大きな課題であることが分かった。

次に人手不足が理由で導入の検討や導入したデジタルツールはあるかを尋ねたところ、「電子カルテ」(34.8%)、「予約・問診システム」(32.5%)、「オンライン診療システム」(23.6%)という結果となり、業務の中核に関わる「電子カルテ」や「予約・問診システム」の導入や検討が進んでいることが明らかになった。一方で、「オンライン診療システム」や「AI診断支援ツール」などの新しい診療形態への対応も進みつつあり、業務負担軽減だけでなく、サービスの多様化にもつながっているという。

新しいデジタルツールを導入する場合の不安では、「スタッフの習熟・研修にかかる負担」(40.4%)が最も多く、「導入・運用コストの高さ」(38.6%)、「既存システムとの互換性(34.4%)」が次いだ。新しいデジタルツールを活用するための研修の負荷が導入の大きな障壁になっており、「費用面」や「既存システムとの互換性」よりも現場が使いこなせるかどうかが最初のハードルとなっているという。

現場の業務で「非効率」と感じるものを尋ねたところ、トップは「紙とデジタルでの情報の二重管理」(36.4%)で、次いで「診療記録や書類作成」(32.7%)。「シフト調整や勤怠管理」(30.5%)」となった。

完全なデジタル化が進んでいない現場では、紙とデジタルが併用されることで情報が分断され、管理の手間が発生しており、情報の「共有」や「一元管理」に課題を感じる声は多く、医療DXの目的が「効率化」だけでなく「業務の一貫性確保」にも広がっているとしている。

医療DXを進めるにあたり必要と感じる支援では「現場スタッフへの教育・研修」(40.6%)が最多で、「低価格な導入コスト」(37.1%)、「個人情報・セキュリティーに関する明確なルール整備」(36.7%)の順だった。

新しいデジタルツールを導入する場合、スタッフへの教育や研修の負担が不安視されていたが、支援でも教育や研修の充実が求められており、現場の負担軽減とデジタルツールの浸透を両立させる施策が重要になっているという。また、費用やルール整備にも導入ハードルが存在し、現場と経営の両面で支援が必要とされていることが分かった。

病院やクリニックに勤務する医師、看護師、看護助手、事務職に業務に必要な情報が分散していると感じることはあるかを聞いたところ、「よくある(30.4%)」「たまにある(60.2%)」と回答し、約9割が情報が分散していると思っていることが分かった。

その理由として「他職種と情報共有しにくい」(40代/女性/看護師)、「情報入力ツールが職種別となっていて、一貫した共有が難しい」(40代/女性/看護師)、「紙の書類が多く、電子カルテだけで仕事ができない」(50代/男性/医師)、「部門システムの連携不足」(60代/男性/看護師)といった回答が寄せられた。

その上で、業務の引き継ぎや共有で、デジタル化による改善が必要と思うかを尋ねたところ、「一部改善の余地がある」(59.9%)「大きな改善が必要」(20.5%)と回答した人が約8割に上った。「すでに十分に改善されている」は15.6%だった。現場では引き継ぎや情報共有のプロセスに課題を感じており、今後は、デジタル化で引き継ぎ業務の平準化と、情報の一元管理に向けたさらなる取り組みが求められているという。

一方、病院やクリニックの経営層に経営の視点と現場の視点の両方から、医療DXを進めたいと思うかを尋ねたところ、「強くそう思う」(37.6%)、「どちらかといえばそう思う」(44.3%)と回答した。

今後の医療DX導入に関する姿勢では「積極的に導入を進めたい」(39.5%)、「課題があれば導入を検討したい」(40.5%)」と回答し、8割が医療DX導入に前向きな姿勢であることが分かった。

保科製作所では調査で「人手不足の補填」が医療DX導入の期待に対して最も多く、実際に電子カルテや予約・問診システムの導入や導入検討が進められていることから、医療DXを単なる業務効率化の手段としてではなく、「人手不足の緩和」という切実な課題の打開策として位置付けていると分析している。

また、導入には「スタッフの研修にかかる負担」や「導入・運用コストの高さ」、「既存システムとの互換性」といった障壁があるため、医療DX推進で求められている支援では、「現場スタッフへの教育・研修」「低価格な導入コスト」「セキュリティールールの整備」など、現場の実情に即した多面的な取り組みが必要としている。加えて、経営層の多くが医療DX推進に前向きな姿勢を示しており、今後は経営層と現場の双方向で理解と連携が医療DX推進に一層重要になるとみている。