順天堂大、RAGで患者情報保護しながらクラウドAIより高速なローカル診療支援AI開発
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順天堂大学は7月2日、RAG(検索拡張生成)技術を活用し、患者プライバシーを保護しながら、クラウド型AI(人工知能)よりも高性能な医師の診療支援AIシステムを開発したと発表した。
順天堂大学大学院医学研究科放射線医学の和田昭彦准教授らの研究グループが開発した。グループでは、放射線科医が日々対応する、臨床医からの造影剤の問い合わせ対応業務の支援で、RAGを使ったクラウドサービスを使わず、病院内のコンピューターでAIを動作することが可能なLLM(大規模言語モデル)を開発。これまで8%あった「ハルシネーション(不正確な応答生成)」を、0%と除去することを実証した。
実証では、実際の医療現場での造影剤相談を模した模擬シナリオを100問作成し、応答内容の正確さをオープンAIの「GPT-4o mini」、グーグルの「Gemini 2.0 Flash」、アンソロピックの「Claude 3.5 Haiku」のクラウド型AI、メタのローカル型AI「Llama 3.2-11B」、「Llama 3.2-11B」にRAGを導入したRAG強化ローカル型AIを比較評価した。
評価は、盲検化された放射線科医による順位付けと、3つのLLM審査員による精度、安全性、構造、トーン、適用性、応答速度の6項目での採点で実施。その結果、RAG強化ローカル型AIでハルシネーションについて、ベースラインモデルでの8%から、RAG導入後には0%へと完全除去を達成し、医療安全性が大幅に向上することを確かめた。
また、RAGでローカル型AIの応答内容の正確性が改善し、RAG強化ローカル型AIは高性能クラウド型AIに近い応答内容を生成可能なことが分かった。放射線科医と、3つのLLM審査員によるスコア形式の採点では、高性能クラウド型AIには及ばなかったが、獲得ポイント差を大幅に縮められた。
さらに、応答速度で、RAG強化はローカル型AIの応答時間を延長させたものの応答速度は「2.6秒」と、クラウド型AIの4.9~7.3秒」を上回ることを確認した。
順天堂大では、ローカル型AIは、患者データの外部送信を一切行わず、院内システムでの完結した運用が可能だが、今回、RAG技術を導入したことでプライバシーを保護しながら従来よりも高速で高性能な診療支援AIの開発できたという。
また、RAG技術で、ローカル型AIが外部の専門知識データベースを参照することで、医療分野特有の複雑な判断に必要な情報を適切に活用できるようになり、これまで困難とされていた「高性能」と「プライバシー保護」の両立が可能になったとしている。
今後は開発したRAG強化ローカル型AIを造影剤相談以外の医療業務での応用も検討する。また、RAGでローカル型AIの外部知識に最新情報や医療機関に固有のルールを取り込む仕組みを導入し、最新医療の情報や技術に対応できる応答内容や性能にシステムを継続的にアップデートすることで、医療ガイドラインの更新や施設固有のプロトコルにも柔軟に対応できるシステムを目指す。
さらに、より大規模な臨床評価や、ほかの医療分野へのシステムに適用拡大を進め、医療機関で実装するための最適化や、医師との協働するためのAI支援ワークフロー確立にも取り組む。