NTT、遠隔手術などに応用できる超音波で触覚生み出す技術を始めとする最新研究を紹介

会場で展示された遠隔手術などに応用できる装置不要で超音波を使って触覚生み出す技術

NTTは5月13日、最新の研究開発の取り組みを紹介する技術イベント「NTTコミュニケーション科学基礎研究所オープンハウス2025」の開催に先駆けて展示を紹介する内覧会を開催した。医療分野での利用が見込まれるデジタル技術も展示された。

会場にはイベントで紹介する20展示から、騒がしい環境での録音音声をクリアな音声に変換する技術や超低消費電力の光AI(人工知能)など7つの技術を展示。その中で、医療分野での応用が期待される2つの技術が紹介された。1つが超音波を使って機器装着不要で空中にリアルな触感を創出する技術。

空中でモノがあるような触り心地を再現する
空中でモノがあるような触り心地を再現する

複数の超音波を皮膚に集中させ焦点を作ることで、焦点に生まれる強い力の感覚に、特定の周波数の振動を加えることで、何もない空中に「つるつる」「さらさら」「ざらざら」といった多彩な触り心地を再現する。

開発した技術の概要
開発した技術の概要

超音波を集束させる仕組みのため、専用機器などを装着せずに非接触な感触を生み出すことができる。超音波で生まれる力の感覚を増強する刺激条件を特定し、複数周波数の超音波で刺激を自在に合成する超音波触感シンセサイザーを開発することで実現した。

超音波振動子アレイを使って、複数の超音波を集束させた
超音波スピーカーアレイを使って、複数の超音波を集束させた

NTTではゲームのコントローラーやVR(仮想現実)での触覚コンテンツといった利用を見込む。医療分野の応用では、手術ロボットを使った遠隔手術で、超音波技術でロボットが執刀する感覚を離れた場所にいる医師にフィードバックすることで、ロボット手術の精度を高めるといった使い方や、VR(仮想現実)を使った手術練習で、感触を伴う、よりリアルな訓練に役立てるといった使い方を想定する。

「医療での利用は、より技術の高める必要があるが、それ以外の分野では5年以内の実用化を目指したい」(森崎汰雄・人間情報研究部感覚インターフェース研究グループ研究員)という。

身体性オンライン面会システム
身体性オンライン面会システム
専用機器でNICUの様子と赤ん坊の鼓動を感じることができる
専用機器でNICUの様子と赤ん坊の鼓動を感じることができる

もう1つが、新生児集中治療室(NICU)に入院する早産児や低出生体重児などを対象にした遠隔で親が子供とのふれあいを感じることができる身体性オンライン面会システム。岩手医科大学と開発した。

システムの概要
システムの概要

システムは、NICUに設置したウェブカメラで赤ん坊の様子を離れた場所にいる家族が持つモニター付きの専用機器に表示。同時に、ベッドサイドモニターに表示される赤ん坊の心電図を光センサーで読み取り、その心拍のリズムに合わせて疑似的に再現した赤ん坊の心臓の鼓動を機器に振動で伝える仕組み。遠隔でも赤ん坊を見て抱いている感覚を得ることができる。マイクで保育器の赤ん坊に呼びかけることも可能。

モニター付きの専用機器を赤ん坊を抱くようにして利用する
モニター付きの専用機器を赤ん坊を抱くようにして利用する

NTTによると、NICUに赤ん坊が入院すると、家族は触れ合う機会が制限されるため、親の子供に対する愛着形成が難しくなったり、産後うつのリスク上昇につながったりする研究があるという。同社では、システムを使って赤ん坊との接触頻度を増やすことで、親が子供への愛情を深めることを促せる一方、赤ん坊も親から頻繁に話しかけてもらうことで情緒形成の発達に役立つとしている。

現在、岩手医科大学附属病院で家族モニターを使った実証実験を行っている。今後は、モニターからの要望をくみ取りながら改良を重ね「早期に実用化のめどをつけていきたい」(村田藍子・人間情報研究部感覚共鳴研究グループ主任研究員)考えだ。